雨が降りしきる11月24日午後、この日まで東京都府中市朝日町のキャンパス開かれていた母校の
東京外国語大学の文化祭、外語祭へ足を運んだ。外語大には26専攻語があるが、2年生が手掛ける専攻語の「語劇」と並び、あるいはそれ以上に外語祭の名物として定着しているのが1年生の「料理店」だ。スペインやトルコなどの料理店を回って買い食いすれば、手軽な世界旅行気分を味わえるのだから“懐に優しい味巡り”と言えよう。
私がフランス語学科(現欧米第二課程フランス語専攻)の1年生としてフランス料理店に参加した舞台は、移転前の東京都北区西ヶ原の手狭なキャンパスだった。といっても、恥ずかしながら1年生を2回経験しているので、2度にわたって料理店に携わったことになる。1度目の1992年11月は人任せにして過ぎ去ってしまったが、93年11月に訪れた2度目になると変なベテラン意識が働いてあれこれと口出ししたくなる。私は広告宣伝を担当したのだが、目的であるお客さん集めにとって絶好の機会が到来し、それが一瞬にして吹き飛びそうになる事態を味わった。
店長がくじ引きで校舎入り口の“一等地”を引き当て、「これは大流行間違いなし」と確信した。しかし喜んだのもつかの間、別の学科から「うちはその位置で代々出しており、位置を交代してほしい」との申し入れがあった。隣接する位置か、通行量が多いポジションならば応じてもいいだろうが、なんとその学科が引き当てたのは別棟の2階という“へき地”だった。応じれば来場者数が大きく減るのは必死なだけに、私や一緒に広告宣伝担当の学生は猛反対したが、店長は要求を受け入れてしまった。おそらく私が店長ならば、交代する学科の売上高から一定金額を損失補てんしてもらうか、それに応じてもらえないのならば店頭にその学科の料理店を知らせて誠意を見せるかで決着させたであろう。私たちの仲間は「お人よしすぎる。赤字になって、出資金も返ってこないのではないか」とあきれ返った。
ただ、悪条件になったのならば、その条件でも話題性を高めるしかない。まずは覚えやすい店名を考案し、目薬の商品にも使われているフランス語で「健康」を意味する「サンテ」に決めた。ただ、店の看板を作成した人が気を利かせたのか「ア・ボトル・サンテ」(「あなたの健康を祝して」の意味で、乾杯のときに使う)と表記し、私はそれが不満だった。「ア・ボトル・サンテ」のほうが飲食店に似つかわしい名前なのは同感だが、フランス語になじみのない来場者ならば記憶しづらいだろう。そこで、私は広告するポスターは「サンテ」で統一した。
そして、ポスターを大量に印刷した上で、上部に大きな余白を設けた。ここに広告宣伝担当が各自思い付いたキャッチフレーズを記入していき、ポスターごとに独自のキャッチフレーズを記して「個性」を持たせたのだ。私が初代代表を務めた文化系サークル「
東京外国語大学メディア研究会」の仲間だった矢木繁くん(現SMK勤務、
東京外国語大学メディア研究会相談役)が「男は黙ってサッポロビール」と引っ掛けて「男は黙ってフランス料理」と書くと、別の女子が「女も黙ってフランス料理」と対抗するのを見て、手応えを感じた。われわれはさらには調子に乗り、「鬼畜米英」と挑発するポスターまで登場。それを一瞥した英米語学科の学生は「やってられへんわ」とあきれ返っていたそうだ。