普段より早く帰宅した夜のこと、聞き覚えのあるフランス語の発音が耳に入ってきた。それはテレビから発せられた、NHK教育テレビ「フランス語会話」に出演している恩師のミカエル・フェリエ先生の声だった。私が教わっていたのは
東京外国語大学で教鞭を執られていた頃だが、その明晰な頭脳ゆえに若くして
中央大学教授として引き抜かれ、語彙力の豊富さから作家としても活躍している。「フランス語会話」の内容は初歩的だったものの、注意点を分かりやすく、的確に指摘する様子に「さすが!」とあらためて感じた。フェリエ先生とは長らくお会いしていないが、年賀状のやりとりは欠かしたことがない。
このようにNHKのテレビやラジオの語学番組の顔触れには
東京外大の卒業生や教員、元教員が目立つが、対する外国語研究・教育拠点の「西の雄」だった
大阪外国語大学は今年10月1日に
大阪大学と統合した。統合とは言え、
大阪外大の名称が「
大阪大学外国語学部」に変わった通り、規模の「大が小をのみ込む」という事実上の吸収合併だ。
旧
大阪外大は、大阪の実業家が私財100万円を国に寄付したのが創設のきっかけとなった。これは
東京外大が
東京大学、
一橋大学と同じ起源で、「官」の色合いが強いのは対照的で、大阪らしい「民」の生い立ちと言えよう。大阪にはかつて、特定の学説に流れない町人向けの教育機関「懐徳堂」が開かれていたように、教育でも「お上」からの押しつけでなく自らの手で人材を輩出しようとする伝統があったようだ。旧
大阪外大もそんな自主独立の校風を受け継いでおり、「アジア系言語を幅広く教えることで、アジアとの結び付きが強い関西に貢献してきた」(在阪経済人)と言えよう。作家の故司馬遼太郎氏をはじめ著名な卒業生も多い。私にも
大阪外大卒の友人や知人が多いが、大らかながらも目的意識をしっかりと持った卒業生が多い印象を持っている。
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大阪大学外国語学部となった旧
大阪外国語大学の校舎(筆者撮影)
しかし、両大学とも国立大学法人へ移行し、「財政健全化」の名の下に文部科学省からの運営費交付金は毎年削られている。財政基盤が弱く、学生数も限られている小規模大学の状況は「個性を輝かせ、質を良くしないと存亡が危うい」(池端雪浦・前
東京外大学長)という。
このため
東京外大は、文科省が教育や研究に対して助成金を出すプログラムへ次々と応募し、2002年度の「21世紀COEプログラム」で2件とも選ばれたのを皮切りに、07年度も「グローバルCOEプログラム」(ブログ「
社会をよみとくキーワード」9月25日参照)に選ばれるなど数多くのプログラムに採択された実績を誇り、自主独立の運営を続けている。池端前学長は「私たちは単科大学だが、3―4学部の大学でもこれだけ採択された大学はないのではないか」と自信を示していた。
対照的に、旧
大阪外大は21世紀COEプログラムなどの助成金事業に苦戦していた。東京への一極集中による大阪の地盤沈下も響き、大学名の看板を下ろして
阪大と統合することで生き残りを賭けることになった。私が
東京外大の同窓会「東京外語会」関西支部の幹事をしていた昨年の関西支部総会の席で、
大阪外大の同窓会「咲耶会」の磯田良一会長(当時)は
阪大との統合が決まったことについて「大学側に独立独歩路線をお願いしていたが、このような結果になって残念だ」と打ち明けていた。
小泉純一郎政権下の歳出削減といった構造改革路線により、東京と地方といった格差は拡大した。そのしわ寄せを受けた地方の反発は、7月29日投開票の第21回参議院議員選挙(ブログ「
社会をよみとくキーワード」8月28日参照)で自由民主党が歴史的大敗を喫する一因となった。東京一極集中への批判も根強く、東京と地方との格差是正が求められている社会背景を鑑みると、個人的には旧
大阪外大には大阪の地で「民」の自主独立路線を貫き、小規模ながらも高水準でユニークな「学問の府」としての地位を保ってほしかったとの思いもある。
ただ、
阪大との統合で財政面などで大規模大学としての余裕が出たことで、今の
大阪大学外国語学部には多くの言語を教育、研究している持ち味を伸ばす道もあるのではないか。統合後も自らの手で外国語研究と教育を発展させてきた強みを生かし、姉妹校の
東京外大と切磋琢磨することで、ともに日本を代表する外国語研究・教育拠点として一段と飛躍してほしいと願っている。
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