仕事で担当している製薬業界の取材をしていた際、ある外資系大手製薬会社の方から「映画に興味はありませんか?」と唐突に言われた。「もちろんですよ」と答えたのがきっかけで、9月29日から全国ロードショーとなる映画「Mayu(まゆ)―ココロの星―」の完成披露発表会に足を運ぶことになった。
この映画は北海道を舞台に、平山あやさんが演じる広告会社で働く21歳の主人公の竹中まゆが、胸の脇にしこりのようなものを見つける。乳がん患者は20歳前後では統計上ゼロであるはずにもかかわらず、医師が告げたのは乳がんという深刻な病名だった。10年後の生存確率は75%、すなわち10年持たない可能性も4分の1あるというプレッシャーを受けながらも、「先生、どんなにつらい治療もがんばります。でも私、いつか好きな人の子どもを産みたいんです。その可能性だけは残してください」ときっぱりと願い出るまゆの真摯な態度が胸を打った。
平山さんが発表会で「まゆは乳がんという大きな病気になり、つらいのにどうして前向きに凜として生きていけるのだろうと思い、頑張ろうと思った」とあいさつしたように、本作の特色は大病を患いながらもあくまでもポジティブな雰囲気を醸し出している点だ。そのような様子は、がんと長年闘病しながらも、明るさを失わない浅田美代子さんが演じるまゆの母親にも投影されている。大学の医学部受験には3年にわたって失敗したまゆだが、私が「闘病生活に耐えられる人だから良い看護師になれるはずなのに」と予期した通り、映画の最後では看護師を真摯に目指す場面が描かれている。
その背景について、原作『おっぱいの詩 21歳の私が、どうして乳がんに?』に自身の体験をつづった大原まゆさんはこう明かした。「(映画の)松浦雅子監督には『私が生きている意味を描いてほしい』とお願いした。主人公が死んでしまう作品に辟易していたので、違うのにしてほしい、当事者から見てウソのある撮影をしないでほしいと。コントロールできない葛藤や難しさを経て、生きることを描いてほしいとお願いした」
主人公がいくら前向きな性格であっても、恋人との別れを決意したり、精神的に不安定になったり、抗がん剤で身を削るようなつらい思いをしたりと胸をえぐられるような場面が多く出てくる。とりわけ、まゆを励まし続ける乳がん患者の京野ことみさん演じる尾崎たまみは、自分の小さな子どもと生活することに希望を抱きながらも他界してしまう。京野さんの好演もあり、「どうして?」という切なさが込み上げてこよう。以前に比べれば助かる可能性が大きくなったとはいえ、がんという大病に必ずしも勝てるとは限らないだけに、病魔は精神的にも家族にも大きな負担になってしまう。
しかし、大病を乗り越えようと精いっぱい努力する患者は、精神的にも人間性も一回りも、二回りも大きくなる。また、闘病を支えるのは家族のほか友人ら周囲の存在が大きく、映画ではまゆの中学時代の星を見るクラブ「ポーラスター」の仲間がその役割を果たしている。退院したまゆの22歳の誕生日に北海道の原野で北極星を共に観察する場面は、大病と闘った勝者への褒美のようなすがすがしさが漂う。
もちろん健康が第一で、がんのような病気でも検診で早期発見することが重要だ。ただ、私の友人でも20歳代でがんから克服した人がいるだけに、この映画で描かれている世界は我々にとっても決して他人事ではない。まゆが10年後以降もずっと生き続けてほしいと願うし、その常にポジティブな姿勢ならば大丈夫に違いないと確信する作品だった。
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