私は現在、中国東部・江蘇省の「第4の都市」である常熟市に滞在している。今は仕事も一段落して「オフタイム」を迎えていることと、読者の方から「北京五輪を控えた中国についてのキーワードを取り上げてほしい」との要望を頂いていたのを踏まえて、現地の様子を簡単にご報告したい。
中国を代表する空の玄関の1つ、上海市の浦東国際空港に降り立ったのは4月17日午後のこと。上海市を前回訪れたのは2001年2月から7年余りがたち、中国の激動ぶりをあらためて認識した。変わったことと言えば、浦東国際空港には第2旅客ターミナルもできあがって一段と巨大化し、世界初の営業運転となったドイツ製のリニアモーターカーが上海市中心部との間を約8分で結んでいる。上海市中心部の金融街「浦東新区」には、高級ホテル「グランドハイアット上海」やオフィスが入居する88階の超高層ビル「金茂大厦」がそびえ、隣接地には森ビルグループが手掛ける101階、高さ492メートルの「上海環球金融中心」が完成を待つ。
前回訪れた01年も摩天楼が林立する一大都市になっており、急速に発展している熱気に圧倒されたのを覚えている。しかし、2010年の上海万博を控えた今日の姿は、以前にも増して街の至る所でつち音が響いており、“新陳代謝”の活発な都市像を見ることができる。
そんな様子を一望すべく、球体を組み合わせたような形状のテレビ塔「東方明珠電視塔」の上層階へ。この高さ約468メートルのテレビ塔は、東京タワー(約333メートル)よりも高くて東洋一、世界でもカナダ、ロシアの塔に次いで3位だ。眼下の街並みは最新鋭のビルと、洗濯物を軒先につるしている昔風のアパートが混在しており、上海市の持つ多面性を象徴しているかのようだ。上海市は既に、人口は1800万人程度に達する世界有数の大都市になっている。同じ中国国内の北京五輪の開催、さらに続く上海万博という一大イベントに向けてどのように変貌を遂げるのだろうか。
△「東方明珠電視塔」の前に立つ筆者(4月17日午後、中国・上海市で)
バスに乗り込み、高速道路で上海市を後にしてしばらくすると常熟市に近づいた。すると、ありとあらゆる土地を開発し、建物を詰め込んでいくような上海市の様子とは打って変わり、木々と黄色のじゅうたんの合間に白壁の家がぽつぽつと見えるようになった。その黄色いじゅうたんの正体とは、春の到来を告げるように咲き誇る菜の花だ。故清岡卓行氏の代表作に『アカシアの大連』があるが、その題名に倣えば「菜の花の常熟」と呼びたくなる風景だ。建設ラッシュに沸く「つち音の上海」から少し離れると、辺り一面に広がる「菜の花の常熟」というコントラスト。
現地の方によると「上海には立派な別荘も構える富裕層も多い」「農業や養殖でも成功した人は多くの富を得て、そうでない人との差は広がっている」といい、道路はアウディなどの欧州系や、トヨタ自動車などの日系の高級自動車が悠々と走行している半面、かなり年季の入ったミニバイクも多く駆け抜ける。日本も格差社会が問題視されているが、中国に見られるコントラストは国民生活にも影を落としているのではないだろうか。そう考えると、私は眺めた中国沿岸部のごく一部の風景も、微妙なバランスの上に経済成長を続ける中国社会の縮図のような気がしてきた。
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