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僕はこのゼミを始めるにあたり、僕は若いゼミ生に対してこんな望みを持っていました。
「今の自分には関係ないと思っても、世の中にはさまざまな弱者が常にいることを忘れないでいてほしい」と。
現実に経済的な弱者を救うセーフティネットとして機能する持続可能なビジネスの一つとしてゲストハウスの運営があり、フリーター支援に一役買っている点は大いに注目すべきところであり、厚労省や経済産業省なども積極的にゲストハウス業者を支援してほしいところです。
しかし、現状ではむしろ既存の法律に縛られる点も少なくない、と山中さんは言います。
「保健所から(素泊まりの)旅館業はしちゃいけないという指導が来るんです。
建築についても消防法の規制があるんです。
ドヤ街にあるような1泊1500円の簡易宿泊所はそれなりに許可をとっているんでしょうが、 日本のゲストハウスだけがアパート扱いなんですよ。
いったん物件を建てたら、その当初の目的でそのまま使い続けろというのが日本の法律なんです。
都心のビルの物件さえ余っているのに、ビジネス物件を住居用にするようなコンバージョン(用途変更)が法的に難しいんですね。
『ゲストハウスといえば、日本ではマンスリー・アパートですよ』と言うと、外国人はみなビックリします。
タイでも、ジャカルタでも、ゲストハウスといえば旅館なんですから」
まさに、「制度疲労」の問題が横たわっているわけです。
新築物件を増やせば、そのぶん建材に使用される木や土が新たに消費され、環境にいいわけがありません。
ですから、「もったいない」精神を行政が音頭をとって再発見しようとするなら、既存の建築物件を再利用するゲストハウスに着目し、1泊のみの利用を自由化してゲストハウスの経営を支援したり、ビジネス用の物件も住宅用に容易にコンバージョンできるような建築基準へ見直しを検討するなど、国の制度改革も必要でしょう。
もっとも、「共同生活」による実現する格安賃貸物件について、まだまだ一般人に認知されていないという逆風もあり、ゼミ生からも素朴な質問が飛び出しました。
「共有して利用される廊下や玄関などの掃除やお風呂の準備などは、誰がやるんですか?」
山中さんが答えます。
「住んでいる人にやってもらうか、うちの会社のスタッフにやってもらうか、スタッフが支援できる範囲でやるか、とさまざまに対処しています」
ハウス内の家事は、ゲストハウス業者によっても、その担い手が異なります。
管理人がハウス内に同居している場合は、管理人に任せることが多いですが、そうではない場合、利用者全員が交代で掃除をしたり、気のついた人がやるなど、自分が満足する清潔さを自己責任で実現させるという暗黙のルールがあるようです。
「ゲストハウス業者どうしの交流はあるんですか?」
「業者を中心に日本ゲストハウス協会が立ち上がりましたが、まだ、活発じゃないですね。
弱小業界なんで」
「保証人を立てられなくなった時の選択肢かなと思いました。
体一つで上京した友達には、ゲストハウスだといいかな。
畑がついてるとうれしいな」
「0円でも上京できるように、仕事をくれる会社と組んでオークハウスのゲストハウスの家賃を作れる仕組みを作ろうとは思っています。
地方から来てすぐ住めることには意義があると思ってます」
「お風呂やキッチンが混んだりしないんですか?」
「朝仕事に行く人もいれば、夜学校に行く人もいて、そのへんは大丈夫ですよ。
キッチンもね、みんなでわいわい作ったり、コンビニで買って部屋で食べたりと、困ってないみたいです」
「子どもの利用は何歳からですか?」
「赤ちゃんは困るけど、うちでは10歳以下は受けつけてません。
でも、働く女性で赤ちゃんがいる方、ペットのいる方でも入れるハウスがいいかなと思うんですが、嫌いな人もいるんで、なかなか大変ですね。
ただ受け入れたいなとは思っているんですよ。
身体障害者の方も来て、一度は断ったんです。
物件は持ち主(大家さん)から預かっているので、段差の加工もできないので。
それでも入りたいと言うので、入居してもらったら、『お風呂などはなんとか這ってでも入る。みんなといると楽しいから』と言いながら半年間いたことがありますね」
「若い技術者たちを育てる場所を大企業は放棄しちゃってるんで、駆け出しの20代では20万程度の月収で、いっそ一緒に住んでしまえば、何かトラブルがあってもお互いに技術的な支援ができるし、夜勤や日勤などバラバラなので、ゲストハウスという住まい方はちょっと面白いかな。
海外、とくにアメリカのハッカーは10人程度が1軒家をシェアしてたり、技術的にわからないことがあっても、教え合ったりして、そういうところからセキュリティの会社を立ち上げたグループも出てきましたし」
「1割以上、技術者がいますよ、うちのゲストハウスには。
でも、男性専用ハウスって人気ないんですよ。
入りたいと思わないでしょ(笑)。
完全にその仕事だけにしちゃうより、実質的には違う人がたくさんいてワイワイやるのが楽しいんですよ」
「疲れた顔して帰ってきた時に、そんな顔を人に見せたくないというか、気の抜けた顔を見せたくないんです。
そういう人はゲストハウスに向いてないのかな?」
「トイレとかシャワールームなどの既存のスペースは共同で使ってますが、新築部分は個人用のものを足していくことは可能は可能ですけどね。
ただ、コストをかければかけるだけ、『安く東京に住む』というコンセプトからは外れていくんですね」
もっとも、本郷には、住人が入口から部屋までは顔を合わせずに済むデザインのシェアハウスがあります。
下記リンクに、そのハウスを設計した建築士の田中友章さんの説明があります。
http://www.asahiglassplaza.net/kaiteki/architect/ar/topic/400.htm
こうして考えると、共同生活を前提とする建築物件におけるプライバシー設計については、今後の建築デザイン上の課題になってくるんだろうと思います。
中流層の家庭の資産が下流化している昨今では、若い頃には安い居住空間に住んで親の経済的負担を軽減し、勉強やコミュニケーションのチャンスと時間を増やすほうがリーズナブルだと思います。
実際、大学進学までさんざんお金をかけてきたのですから、上京したら子どもをゲストハウスに入れて、お金のありがたみを実感させたほうが、社会に出る前の良い勉強になると思います。
もっとも、会社単位ではなく、個人的にゲストハウスを運営し、家賃収入で暮らしている若い人も増えているので、東大生なら「受験生向けの宿」として運営して、家庭教師をブッキングすれば、教師紹介料と家賃収入で時給のアルバイトをやるよりもはるかに効率的に儲かると思うんですが、20歳そこそこの東大生諸君はピンと来ていない様子でした。
通常の家賃より高くても、現役東大生が勉強を教えてくれて、しかも格安で住めるゲストハウスが駒場や本郷などにあれば、全国から問い合わせが殺到するんじゃないかと思うんですけど、勉学に忙しくて、それどころではないのかもしれませんね。
株式会社オークハウスは、2007年9月現在で都内中心に80か所でゲストハウスを運営し、1300室を貸している日本最大のゲストハウス業者です。
その代表取締役である山中武志さん(55歳)をこのゼミにお招きする前に、人生年譜をいただいたところ、山中さんは1974年に京都大学経済学部を卒業し、日本IBMに入社したそうです。
「世界一のコンピューターの会社です。給料が高い、実力主義の会社だということで決めました。
その後、1981年に退職しコンピューターソフト会社を創業しましたが、1992年に倒産させてしまいました。
それから偶然、ゲストハウスという仕事を始めたわけです」
「偶然」というのは、経営していた会社の保有する物件が利用者がなかったため、友人の外国人に貸したところ、これが喜ばれたという一件から、遊休物件の再利用に「天職」を見出されたようです。
不動産賃貸業者に預けても借り手が現れない老朽化した木造アパート、壊して更地にするコストをかけるぐらいなら固定資産税を支払える以上の利益を生み出したい社宅や学生寮などの時代の遺物のような物件、それらが都心では少なからず余っていることに山中さんは気付きます。
そして、それらの物件を丸ごと1棟安く借り上げることで敷金・礼金を受け取らずにマンスリー単位で貸すビジネスモデルで、経済的に余裕のない人でも気軽に利用できる物件を次々に開発していったわけです。
しかも、連帯保証人も不要で利用できるようにしたことから、当然のように外国人や身寄りのない人なども集まってきました。
ゼミ生から、「保証人なしで貸し倒れは?」という当然の疑問がぶつけられました。
山中さんが答えます。
「昨年は15人、こちらから出ていってもらったんですけど、そのうち10人くらいは払えない人なので、1件5万円だとして、年間で50万程度のロスにすぎないんですよ。
1300室の中で10人ですよ。
もっとも、本当にお金のない人や収入が不安定な人には、アルバイトを紹介するケースもあります。
『オークハウスでもアルバイトの口がありますから。そういう困りごとは逃げずにスタッフにしてください』と言っているんです。
このように実際は保証人なしでも安心して運営できるんですが、そもそも日本の不動産業界は地主・家主などの代理業者で、供給側のロジックが続いているんです。
不動産屋は入居者募集して、仕事先などを確認して、礼金・敷金とっているのに、クーリングオフの制度もないですよね。
マンションに入って昼間に10分くらいチェックしても、いざ入居して夜になったら上の階では子どもがドタドタ歩き回ったり、隣の部屋がやくざだったりしても、礼金も敷金も返ってこないですよね。
戦後、物件が少ない時代に、供給側の論理がまかり通ってしまったんですね。
今はkakaku.comのように消費者側が価格を決めているのに、不動産業界だけはまだ改善されてないってことなんです」
最近は、20〜30代のネットカフェ難民や低賃金にあえぐフリーターも少なからずいますが、月に3万円程度から入居できるゲストハウスはネットカフェを利用するよりも安く、同時に定職に就くうえで好都合でしょう。
不動産賃貸会社で紹介されるようなマンションやアパートには高くて住めない低所得層にとっては、ゲストハウスの認知度が上がり、彼らの耳や目に届くこと自体が社会的に意義のあることのように感じました。
「これまでに、社会の底辺にいる人や人生に失敗した人、ドメスティックバイオレンスの方とか、いろんな人が利用されました。
今でも生活に困って『ゲストハウスは安いから』と言って入ってくる人もいます。
それでも、このビジネスを始めようとしていた15年前の頃は、ヤクザがビルを不法占拠してやっていたような、スクォッティング(※廃屋の不法占拠)のようなゲストハウスがあったんですね。
外国人さんを放り込んで、逃げないようにしていたりね。
最近はありませんが。
そうではなくても、自由気ままにやってるゲストハウスもありましたよ。
床を10年以上掃除せずに、灰皿みたいになってたりね。
兵役が終わって世界放浪するイスラエル人(ユダヤ人)が日本で始めたゲストハウスもありましたが、めちゃくちゃでしたね。
それらは『外人ハウス』と呼ばれていたのでイメージが良くなくて、僕は『ゲストハウス』と呼び始めたんですね」
このように、ゲストハウスの物件数を増大させてきたこと自体が、経済的弱者を救うという点では「ソーシャルベンチャー」的と言えます。
ソーシャルベンチャーについては、下記サイトをご覧ください。
http://gogo-socialventure.blogspot.com/
(つづく)
もっとも、居住者たちの均質性を保ちたいと考える業者もあります。
それは、たった3人の若者が12件ものゲストハウスを運営している「国際交流協会」(borderless-tokyo.com/index.htm)です。
彼らは物件をすべて一戸建ての民家にし、入居希望者を共通の話題に事欠かない10〜20代までに限定し、人付き合いが上手な者のみを面接で選んで入居させています。
でも、多くのゲストハウスでは、運営業者から公共料金の頭割りや共有スペースでの禁煙などの最低限度のルールを約束させる以外は、たとえば「トイレットロールが切れた時に誰が補てんするか」「セックスの声を薄い壁の向こうにいる隣人に聞かせていいのか」などの細々とした生活上のルールは、そのつど当事者どうしで解決させるように指導したり、「住人BBS」のようなオープンな場所で意見交換させては解決を図っています。
それでも駄目なら、入居者は退出するでしょうが、別室も入居希望者も多いため、自分らしく住める場所に移動するだけです。
こうして見ると、同じ共同生活スタイルの住環境といっても、ゲストハウスは中流資産層によるコレクティブハウスとは趣きが違いますね。
(※コレクティヴハウス=自立している個人が自由に生活できることを前提に、住人どうしで食事や掃除、保育などの生活の一部を共同で行ったり、設備を共有しながら賃貸住宅をシェアして暮らすライフスタイル。東京・日暮里に日本初の多世代・賃貸コレクティヴハウス「かんかん森」が2003年6月に完成した)
ゲストハウスは、まるでインターネットを利用する時のように居住者自身による自己責任の住まい方であり、自分と感性の違う他者と折り合いをつけられるだけのコミュニケーション・スキルを育てる培養基ともいえます。
いつでも入れて自由に出ていける「家」だから「今、ここ」にある関係と自分自身の今後を考えることが日々強いられるし、同じ屋根の下に住んでいれば恋愛も異業種間の交流も自然に生まれます。
ゲストハウスに関する認知がもっと広がれば、交際上手な人が集まる物件と、その対極の吹きだまりのような物件の二極化が進むでしょう。
ハッキリ言えるのは、新築用の建材を消費せずに既存物件を再利用する日本型ゲストハウスは、下流層の人が住むだけでロハスを実現させているということです。
従来の住宅が同一の所有者にしか利用されなかったことを考えると、ゲストハウスは建築の新たな地平を感じさせます。
それは、ダンボールハウスのホームレスたちが公園を共有しながら暮らしているような住まい方を関心外にしてきた建築家たちの課題でしょう。
ネットカフェ難民や若年ホームレスなどの「ワーキングプア」層の若い失業者たちにとっても、1か月3万円前後で滞在できるゲストハウスは生き直しのチャンスになると期待できますし、国の福祉対策や失業対策を待つよりも、具体的かつスピーディーな住居支援になるように思います。
ゲストハウスは、今後もっと福祉の面から期待されて行くと思いますが、東京大学の自主ゼミだからこそ、学歴も、学力も、稼ぐ力も、就業の経験値もない「ワーキングプア」層にとってどれほどゲストハウスが有益なのかを知ってもらうためにも、このテーマを設けました。
なお、ゲストハウスの全貌に関する詳細は『ゲストハウスに住もう!/TOKYO非定住生活』(晶文社)を、個人経営者の語る運営の詳細については『親より稼ぐネオニート 〜「脱・雇用」時代の若者たち』(扶桑社新書)を読んでいただきたいです。
また、最寄りのゲストハウスを見学したい場合は、下記サイトで検索するといいでしょう。
●ゲストハウス検索
http://guesthousenews.seesaa.net/
●『ゲストハウスに住もう』 『親より稼ぐネオニート』を買う
http://astore.amazon.co.jp/stayinguestho-22
ゼミでは、業界最大手のゲストハウス運営業者「株式会社オークハウス」の代表取締役である山中武志さんをお招きし、最先端のゲストハウス事情についてお話いただくことにしました。
また、なぜ山中さんがゲストハウスの物件開発に10年以上力を注いで来られたのかについてもお話いただこうと思っています。
(つづく)
最近、日本の住居で注目を集めているものに、ゲストハウスがあります。
これは、老朽化したアパートや不要になった社宅や学生寮、民家などを丸ごと1軒格安で大家から借り上げて、入居希望者たちに戸別に又貸しされる賃貸物件のこと。
都市圏では1か月単位、地方の観光地や島などでは1日単位で借りられる「宿」(短期滞在仕様の住宅)として人気を集めており、物件数は増える一方です。
2007年2月13日現在、全国では300件以上のゲストハウスが運営され、そのほとんどは首都圏(東京・千葉・神奈川・埼玉)に集中しているが、利用者の総数は少なく見積もっても1万人以上に上るだろうと推定されます(参考:guesthousejapan.net/)。
このようにバックパッカーが格安で滞在できる宿や、金さえ出せばどんな国籍の人も滞在できる賃貸住居は、欧米やアジアなど国外では当たり前に数多くあったんですね。
でも、他者を受け入れることが苦手な日本では、不動産賃貸業者は「連帯保証をしてくれる人を探せ」と強いてきたため、この条件をクリアできない外国人などは長らく通常の賃貸物件への入居を拒否されてきたわけです。
しかし、バブル景気がはじけつつあった80年代末から一部の不動産業者が少しずつ外国人を受け入れる物件(=外人ハウス)を増やしてきました。
それが、日本におけるゲストハウス誕生の契機といわれています。
ゲストハウスでは、礼金・敷金・紹介料(仲介手数料)・更新手数料は0円。
中には公共料金も(家賃に含めてあるので)0円という物件が珍しくなく、1ヶ月分の家賃さえ前払いすれば、部屋にはベッドもエアコンも常設されているので即入居できるうえに、居心地や隣人が気に入らなければ別室やべつの物件にすぐに移動できます。
東京都内の6畳ほどの個室を借りてもゲストハウスなら毎月の家賃が6〜7万円で入居できる物件がありますし、6畳の部屋に2段ベッドを2つ置いて4人用の相部屋として利用する「ドミトリー」(雑居)なら1人頭2〜3万円台もザラにあります。
ゲストハウスの物件は総じて、レオパレスや月単位や週単位などの短期滞在仕様のマンション・アパートよりも安く、中には1泊1000円程度の簡易宿泊施設よりも安く利用できる物件すら珍しくありません。
しかも、居間などの共用スペースにあるテレビやパソコン、冷蔵庫は使い放題。コインシャワーやコインランドリーも設置してあるので大荷物で引越する必要もなく、超低予算で暮らせるんです。
その安さと手軽さが受けて、今日では国内外のバックパッカーや学生はもちろん、連帯保証を頼む面倒が嫌な人、職場が変わって会社に近い物件に素早く移動したいフリーターなど広いニーズで集客できるようになり、ほとんど広告費をかけずに済むほど需要に供給が追いつかない好況ぶりです。
ここ10年はインターネットの普及と海外渡航を経験する日本人の増加によってゲストハウスの認知と人気は若者たちの間に広まっており、ビジネステナントが埋まらないオフィスビルのワンフロアをゲストハウス仕様にコンバージョンする若い建築コンサルタントも急増しています。
2006年2月には業界団体「日本ゲストハウス協会」が正式に立ち上がりました(www.guesthousekyokai.org/)。
その参加者には20〜30代の個人事業者も散見されました。
mixiにもゲストハウスを個人経営したい若者の集まるコミュニティ(BBS)が乱立し、イギリスやジャマイカなど海外でハウスを営む日本人も増えていることがわかります。
それほどゲストハウスが日本人に支持された第一の理由は、中流資産層の下流化にあります。
居住者たちの素性を聞けば、雇用の機会が乏しくなった地方から出稼ぎに来る10〜20代、夫に殴られて家にいられなくなった主婦や子ども、生活費を切り詰めて起業したい若者、親から仕送りを満足にもらえない上京学生など、ゲストハウスが社会的弱者の受け皿として機能していることは歴然としています。
もう一つの魅力は、安さを実現するために自己責任の住まい方を採用している点。
30年以上前に建てられた社宅では鉄筋コンクリート建築でも外壁ははがれているし、耐震構造にも難点はあるでしょう。
でも、短期間なら資産が減るリスクよりも住環境のリスクを自己責任で選ぶほうが安心できる人が増えているのです。
最大の魅力は、共有スペースにおける居住者どうしの長屋的なコミュニケーションでしょう。
都心のゲストハウスに暮らす地方出身者は「(台所などで)隣近所に住んでる人に『おはよう』と声をかければ、ふつうに『おはよう』って返ってくる」と喜んでいました。
隣人の素性に関心を持たないで暮らすマンスリー・マンションにはない光景です。
高校生の娘と一緒に入ってきた母親は、「娘は自力で学費を稼ぐことに目覚め、留学が決まりました。『お姉さん』のような居住者たちが娘と話をしてくれたおかげ」と言いました。
ゲストハウスでは、居住者の入・退出時や誕生日、クリスマスなどのシーズン・イベントには居住者やその友達が共用スペースに集まってパーティが開かれたり、日常的には家事当番やお互いの部屋の出入りがあるなど、「疑似家族」的な親しみを覚える機会が少なくありません。
地域共同体や家族といった単位でのコミュニケーションが困難になってしまった今日の日本では、ゲストハウスへの入居を通じて自分とウマの合う人間を探したり、国籍も習慣も違う隣人と仲良くすることで、単身独居では知り得ない社会の豊かさにふれたい人が増えているのかもしれません。
(つづく)