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1965年生。早稲田大学第一文学部を3か月で勇退。広告業界を経て25歳でフリーライターに。企画・編集した『日本一醜い親への手紙』はベストセラー。『完全家出マニュアル』で造語した「プチ家出」が流行語に。2007年春から東京大学(駒場キャンパス)で自主ゼミの講師を始める。著書に『親より稼ぐネオニート』(扶桑社新書)、『ゲストハウスに住もう!』(晶文社)など多数。
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お父さんの育児 (2008年06月22日)

第29回 ナーシング・フリーダム@[2008年01月04日(金) ]

 「ソーシャルベンチャー」という言葉が日本でまったく話題に上っていなかった頃から、世の中にある問題を解決するためにビジネスの手法を使おうという動きは芽吹いていました。

 その一つが、授乳服(※赤ちゃんにおっぱいをあげるための服)の製造・販売を手掛けながら、母親というライフステージから女性の自由で新しい生き方を試みようと呼びかけている「モーハウス」という団体です。

http://www.mo-house.net/

 茨城県のつくば市に事務所があるこの団体の発足は、代表者・光畑由佳さん(43歳)自身のこんな経験から始まりました。

 1997年、生後1ヶ月の次女と一緒に電車に乗っていたところ、空いてきた車内で次女がぐずり始めたのです。

 いつまでも赤ちゃんは泣きやまず、声は大きくなるばかり。
 乗客たちの視線が集まります。
 次女はおなかがすいているのです。
 ミルクは持参していませんでした。

(降りる駅まであと少し。もう少しがまんすれば、授乳できる…)

 でも、そのとき、彼女は苦い経験を思い出しました。

 長女がまだ授乳期の頃、丸一日搾乳しなかったために母乳が出なくなってしまったことがあったのです。

 心配が募った光畑さんはパニックになり、途中下車も思いつかず、仕方なくブラウスの前ボタンをはずし、授乳をすることにしました。

 駅に着き、赤ちゃんのいる女性の友人に会ってこの体験を話すと、「信じられない」と言われた。光畑さんは母乳育児にこんな不便さがあるのかと痛感したが、同時に「そんなのおかしい」とも思ったのです。

「本来自然なものであるはずの母乳による授乳が自分の行動を束縛するなんて変。
 どこでも授乳する自由はあっていいと思うけど、気遣いはやっぱり必要。
 だったら解決する方法はないかな」

 そこで光畑さんは、以前取り寄せた海外の授乳服の通信販売カタログを思い出し、取り寄せて、試しにそれを着て外出してみたのです。

「羽根が生えたような気持ち、想像もしなかったような解放感が心の中に湧き出てきました。
 『これでどこにでも行ける! 私の自由は保証された!』という感じ。
 解放感があったということは、それまで束縛感があったはずなのに、それまで全然そんなふうに感じたことはありませんでした。
 でも、こうして解放感を感じて初めて『今まで自分は我慢してたんだ』と気づかされたんです。
 世の中のお母さんたちがそれに気がつかず、ずっと我慢したままなら、この解放感を教えたい。
 そんな気持ちでいっぱいになりました」

 それ以来、光畑さんは「授乳服の伝道者」になりました。

 そして、ママさんどうしの間でいろいろと情報収集をする中で、だんだん「やはり自分で作ろう」という気持ちは大きくなっていったのです。

 しかし、光畑さんには、プロとして服を作った経験はありませんでした。

 それでも、「自分で縫えなくても、できる人をつないでいけば、生産できるはず」と考え、縫える人やデザインのできる人を探したのです。

 すると、たまたま自宅のお向かいの奥さんがドレメを出て縫製のできる方だったので、「売れたら払うから」と製作をお願いできました。

 また、小学校時代からの友人にアパレルメーカーのデザイナーがいて、デザインを頼むこともできました。

 資本金は「財布に入っているお札数枚」。

 でも、光畑さんの故郷・倉敷は繊維産業が盛んなところで、「安いけれど素敵な生地」を探しては数メートル単位で買えたんですね。

 こうして光畑さんとその仲間は特価品の生地を買い、作っては売るというペースで仕事を始めました。

 授乳服といっても、「マタニティでも授乳中でも体型がきれいに見える」と「授乳用のためだけに穴が空いているのではなく、ふだん着としても違和感なく着られる」という2点を重視したデザインにしました。

 やがて光畑さんは自宅をママさんたちに開放し、より多くのママさんたちとの交流のチャンスにすることにしました。

 こうした「オープンハウス」の試みは、出会いのチャンスを増やしただけではなく、乳幼児との付き合いに悩む母親たちの肩の荷を下ろす効果もありました。

「お母さんが心地よく過ごせると、赤ちゃんも心地よいんですよ。
 力を抜いて、自分が楽をすることが悪いとは思わずにいてほしい。
 そのいい加減の力の抜き方の例がオープンハウスにはあふれていました。
 毎日の育児のプレッシャーでいっぱいいっぱいの人も、『ああ、育児ってこんなのでいいんだ』と安心してくれました。
 多数派のおおざっぱなお母さんたちを見たり、話を聞いたりすることで自然に悟ってくれるんです」

 こうしたオープンハウスの手応えを得て、光畑さんの気持ちはより多くの母親に向けて発信できるイベントの開催に傾いていったようです。

(つづく)