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1965年生。早稲田大学第一文学部を3か月で勇退。広告業界を経て25歳でフリーライターに。企画・編集した『日本一醜い親への手紙』はベストセラー。『完全家出マニュアル』で造語した「プチ家出」が流行語に。2007年春から東京大学(駒場キャンパス)で自主ゼミの講師を始める。著書に『親より稼ぐネオニート』(扶桑社新書)、『ゲストハウスに住もう!』(晶文社)など多数。
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第24回 メディア・リテラシーC[2007年11月30日(金) ]

 わたなべ氏の証言が続きます。

「あるとき編集部から、『夏だからお化けを撮ってきてよ』と言われました。
 撮りましたよ。
 仲の良い病院に電話して、そこは古いビルなので、三脚を止めて30秒シャッターを切りました。
 そして、レンズの前にライターの火を置くと、良いお化けが撮れるんです。
 そこで、一番よく撮れているものと、一番だめなのと、中間と3枚を編集部に渡すと、真ん中が使われます。
 もっとも、べつの記事で美輪明宏さんあたりが『お化けはいるんです』というコメントをしてくれて、それを記事中に使うのであれば、なるだけ上手く撮れているものを使います。
 編集者が誰かに責任をなすりつけたい時はそう。
 でも、編集部の責任が問われそうなものには、あいまいなものを使うんです。
 ある雑誌の写真整理棚には、有名人別のファイルがあります。
 たとえば、安達祐実の欄に笑顔・泣き顔・怒った顔などで仕分けされているボックスがあります。
 なにかその時の話題のネタがあった時に、それに見合った表情の写真がいつでも掲載できるようにしてあるんですね。
 だから、ふつうにインタビュー取材で撮影に行く時でも、『(笑顔だけでなく)他の絵も撮って来い』と言われます。
 そうやって、くしゃみしそうな顔が『不機嫌な顔』としてストックしてあるので、安達祐実を叩きたい時はそういう表情の写真を使うわけです」

 ここで、ゼミ生に質問を投げかけてみることにしました。

今「優秀な高学歴の大学出身者が集まる、日本で1位、2位を争う大きな出版社の編集部の仕事でも、今わたなべくんが証言してくれたようなことが平気でまかり通っているんだけど、なぜそうなると思いますか?」

学生「そうしないと、売れないから」

わたなべ「過去にはそうやって売れたというのは、確かにあるかもしれない」

学生「読者が期待しているから?」

わたなべ「じゃあ、本物を使えばいいじゃないの」

学生「コストを下げるため」

わたなべ「それはあるかもしれない」

学生「楽だから」

わたなべ「そこに来ている編集者は社内で稼ぎ頭のトップ社員ですよ。
 会社全体の売上を確実に支えている集団でもある。
 わざわざ楽しようというわけではないんだ」

学生「時間がないから」

わたなべ「そうです」

 わたなべ氏が解説します。

「雑誌の制作にはとかく時間がないんです。
 週刊誌の取材なら、1日あればいいほう。
 その中で〆切に間に合わせるには、最初に結論を決めてないと作れないんです」

 もちろん、その時間の無さゆえの仕事の安直さに居直ってしまえば、マスメディアには妄想ばかりがはびこり、編集者の知らない新しい現実や希望が世の中に生まれていることが伝わらないまま、社会に嫌な空気が蔓延することにもつながりません。

 そういうマクロ的な視点で社会的に意義のある仕事がしたいと考える(圧倒的に少数派の)ライターやフリーの映像ディレクターは、孤軍奮闘や貧乏を恐れずに自分の時間やお金を費やして取材したものを企画として編集者に提供し、「こういう記事をあなたの雑誌で書かせてくれませんか」と売り込むわけです。

 そして、なんとか良心的な記事や番組が少しでも広く社会に伝わるように日々頑張っているわけですが、そういう実態の詳細は大学のメディア・リテラシーの講義でも教わらないはずです。

 テレビ局や新聞社から定年退職して「天下り」のように大学の先生に収まったおじさんたちには、「問題」として見えてこない現実だからです。

 もっとも、わたなべ氏は、「そこには世代論がある」と指摘します。

「僕らより前の世代の人は、たとえば『そろそろ安達祐実を叩くか』と思って調べてみたら、リサーチに動いたライターたちから『あの人はけっこういい人ですよ』という声がいっぱい上がってきた場合には、『じゃあ、そういう路線で書くか。先週売れたから、今週はそんなに売れる必要はないし』と考えてくれる編集もいました。
 また、まったくの素人でも面白い逸材がいれば、『こいつ面白いから有名にしちゃおうぜ!』と意気込んで、新しいスターを生み出すことに面白がれた時代もあったようなんだ。
 けど、そうした仕事ぶりや予算の高さを見て『マスコミは美味しい仕事だ』と思う僕らの世代が仕事をする90年代の頃には、既に『昨年のデータはこうだった。だから、今回もこの記事はこうしよう』というルーティン仕事になっていたり、既にある写真データを使い回せばそれなりに記事が作れてしまうから、あとは都合のいいコメントをしてくれる人を探すのだけが仕事になったのかもしれないね。
 それが時間も金もかけずに仕事が成り立つことを踏襲できる世代になってしまったってことなんだろう」

 もちろん、そういうルーティン仕事をするマスコミの対応を観るにつけ、真意が伝わらないまま自分のコメントがいいように使われて名前だけが有名になっていくのを嫌う知識人も少しずつ現われてきていて、そういう人はパッとテレビや雑誌に出ていたと思ったら、とんとコメントしなくなるってことがあります。

 でも、大学の先生や精神科医のような人たちは世間知らずの代表のような商売ですから、たとえば、「酒鬼薔薇聖斗」事件(1997)から10年経っても変わらないコメントをしてくれるんですね。

 10年前とほとんど同じ内容がそのまま記事や番組になっていても、まったく恥ずかしさを感じてないのですから、これは「出たがりな人」としか言いようがありません。

 最後にわたなべ氏は、こんな宿題をこれから社会に出ていくゼミ生に与えました。

「99%違うけど、1%ある悪い部分も『真実」として記事にする雑誌でも、編集者の社員は入社すると、それを率先してやってしまうんです。
 たかだか1万5千程度のギャラのために、平気でそれをやってしまうフリーライターもいる。
 ネタを垂れこんだ友達に迷惑がかかっても、書いてしまう。
 優秀な大学を出て、なぜそうなってしまうんだろうね?」

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Posted by:dfg at 2008年09月01日(月) 14:12