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雑誌編集者が妄想的仮説で企画を考え、その編集方針に合致する現実のみを取材するライターがいるおかげで、世の中に妄想を重ね塗りするような記事ばかり流通してしまうという傾向は、新聞記事やテレビ・ラジオの番組を制作する場面でもたいして変わりません。
それゆえに、編集者は自分の妄想を裏付けてくれるようなコメントをしてくれる「偉い人」をコメンテーターとして、記事や番組にインサート(挿入)します。
たとえば、少年事件で猟奇的なものがおきれば、現役の精神科医や「犯罪心理にくわしい」大学教授などの学者にコメントを語らせれば、それを観る者に「偉い人が言っているんだから、なんとなくそういうもんかな」と思わせることができます。
こういうコメントにほいほい出てくる学者や「識者」をマスコミ界隈では「御用学者」と呼んで重宝しますが、言わば、妄想でしかない発想に学者の権威で肉付けしてくれるわけですから、大変便利な存在として扱われているわけです。
しかし、これは、妄想という根拠のないメッセージを公に報道してしまう編集者自身の不安を解消するための演出にすぎません。
なので、自分が1時間も長々と丁寧に説明したコメントが、編集者にとって都合のいいところだけを切り取られて15秒の映像や3行の文章として視聴者や読者に届けられるという仕組みを理解した「識者」は、わざわざコメントを言う仕事に付き合うバカバカしさに呆れて新たなコメントを拒否することもあります。
もっとも、大学教授には大学の外の世界を知らない世間知らずな人がいっぱいいますから、マスコミ側から見れば、コメントをしてくれる人材に事欠きませんし、世の中の多くの人が大学教授を「偉い人」と信じてくれている限りは、妄想を支える権威として「〜にくわしい」という枕詞で何度もメディアに登場するわけです。
ここには、事実の現場を取材するライターの取材に金や時間を投資するよりも、メディアの内容を左右する編集権を持つ編集者が恣意的に「売れる妄想」「売りやすいメッセージ」を優先的に考え、知っておくべき事実を延々と放置してしまうという問題が取り残される構図があります。
こうした取材の現場について、もっと具体的な体験談を知ってもらうために、ゼミにはゲスト講師としてゴシップ雑誌での仕事経験のある友人のわたなべけんいち氏に登場してもらいました。
彼の現在の肩書は、映像制作プロダクション「株式会社ナベックス」の社長であり、童話作家ですが、26歳から雑誌カメラマンや記者の仕事を始め、30歳(1995年)で地下鉄サリン事件の被害者宅へ撮影に行かされたのを機に、ゴシップ雑誌のカメラマン&ライターを廃業しました。
その時に話題になっている事件や人物ならば読者の関心が高いので、どんな記事でもいいから、話題に便乗して記事を作ろうとする現場には、ついていけないものを感じることが僕にもあります。
そんな現場について、彼はこう証言しました。
「僕が某ゴシップ雑誌で取材していたのは10年前ですが、たとえば突然、編集部から『安達祐実を叩こう』という話が振られます。
160字が1320円でデータ原稿を書いていたので、10枚書いて1万円といったところですよ。
ボツになったらギャラが出るけど、ボツにならないように動くわけで、当然『作ってくる』しかありません。
なので、気の利いた記者は原稿の中にうまくそれを示唆します。
『〜と関係者が言った』『〜と消息筋は言った』という表現で語尾を曖昧にし、『これにはウソが混じっているよ』『無理やりこじつけたよ』とほのめかすわけです。
もっとも、『〜とマネジャーが言った』『〜とテレビ関係者は語る』という語尾であれば、ちょっと信憑性が増します。
それでも、コメントした人名が特定できるわけではありませんから、信憑性もその程度でしょう。
しかし、これが記事を書いた人の名前が出ている署名記事だと、信憑性はぐっと上がります。
取材・文●●と名前が大きく掲載されているのが、署名記事です。
しかも、他に本を何冊も出しているなどその雑誌の仕事がなくても食っていける人、あるいはその仕事をなくして貧乏になっても困らないと感じている人だと、まず、ほとんどウソはないと思っていいです。
ただ、独自理論に走る場合が多いです(笑)。
もっとも、見方はそれぞれに正しいともいえるので、すぐさまコンセンサスがとれる見方とは限らない意見を書いているというのが正しい言い方でしょうか。
人間は日々成長します。
昨日の自分のまま明日の自分があるということではないので、見方も意見も日々変わって当たり前なので、それはよしとしましょう。
むしろ、注目すべきは、一度編集部内で『安達祐実を叩こう』という編集方針が決まってしまえば、その論調に都合よくコメントしてくれる人に証言させて、論調に説得力を持たせるということがあるという点です。
芸能ネタであれば、『芸能レポーターの●●さんはこう語る』みたいに、安達祐実が憎くなくても都合のいいコメントをいつも出してくれる人に声をかけて、コメントをいただくわけです。
芸能界では、同じ相手に対して悪口を言う人と良い評判を言う人が同じ場合がままあります。
『なんでこんな絶好の場所で不倫の写真がばっちりピントが合って撮れるの?』と首をひねってしまうような写真が雑誌にはよくありますから、せめてそこにある語尾に注目してほしいです。
うちの父親は学のない男でしたが、僕が『お父さん、テレビでこんなことを言ってたよ』と言うと、『おまえ、それを見たのか?』と答えるのが口癖でした。
今なら、なるほどと思いますね。
こんなやつ(今一生)や、こんなやつ(自分)が書いてるんですから(笑)」
(つづく)