もっとも、居住者たちの均質性を保ちたいと考える業者もあります。
それは、たった3人の若者が12件ものゲストハウスを運営している「国際交流協会」(borderless-tokyo.com/index.htm)です。
彼らは物件をすべて一戸建ての民家にし、入居希望者を共通の話題に事欠かない10~20代までに限定し、人付き合いが上手な者のみを面接で選んで入居させています。
でも、多くのゲストハウスでは、運営業者から公共料金の頭割りや共有スペースでの禁煙などの最低限度のルールを約束させる以外は、たとえば「トイレットロールが切れた時に誰が補てんするか」「セックスの声を薄い壁の向こうにいる隣人に聞かせていいのか」などの細々とした生活上のルールは、そのつど当事者どうしで解決させるように指導したり、「住人BBS」のようなオープンな場所で意見交換させては解決を図っています。
それでも駄目なら、入居者は退出するでしょうが、別室も入居希望者も多いため、自分らしく住める場所に移動するだけです。
こうして見ると、同じ共同生活スタイルの住環境といっても、ゲストハウスは中流資産層によるコレクティブハウスとは趣きが違いますね。
(※コレクティヴハウス=自立している個人が自由に生活できることを前提に、住人どうしで食事や掃除、保育などの生活の一部を共同で行ったり、設備を共有しながら賃貸住宅をシェアして暮らすライフスタイル。東京・日暮里に日本初の多世代・賃貸コレクティヴハウス「かんかん森」が2003年6月に完成した)
ゲストハウスは、まるでインターネットを利用する時のように居住者自身による自己責任の住まい方であり、自分と感性の違う他者と折り合いをつけられるだけのコミュニケーション・スキルを育てる培養基ともいえます。
いつでも入れて自由に出ていける「家」だから「今、ここ」にある関係と自分自身の今後を考えることが日々強いられるし、同じ屋根の下に住んでいれば恋愛も異業種間の交流も自然に生まれます。
ゲストハウスに関する認知がもっと広がれば、交際上手な人が集まる物件と、その対極の吹きだまりのような物件の二極化が進むでしょう。
ハッキリ言えるのは、新築用の建材を消費せずに既存物件を再利用する日本型ゲストハウスは、下流層の人が住むだけでロハスを実現させているということです。
従来の住宅が同一の所有者にしか利用されなかったことを考えると、ゲストハウスは建築の新たな地平を感じさせます。
それは、ダンボールハウスのホームレスたちが公園を共有しながら暮らしているような住まい方を関心外にしてきた建築家たちの課題でしょう。
ネットカフェ難民や若年ホームレスなどの「ワーキングプア」層の若い失業者たちにとっても、1か月3万円前後で滞在できるゲストハウスは生き直しのチャンスになると期待できますし、国の福祉対策や失業対策を待つよりも、具体的かつスピーディーな住居支援になるように思います。
ゲストハウスは、今後もっと福祉の面から期待されて行くと思いますが、東京大学の自主ゼミだからこそ、学歴も、学力も、稼ぐ力も、就業の経験値もない「ワーキングプア」層にとってどれほどゲストハウスが有益なのかを知ってもらうためにも、このテーマを設けました。
なお、ゲストハウスの全貌に関する詳細は『ゲストハウスに住もう!/TOKYO非定住生活』(晶文社)を、個人経営者の語る運営の詳細については『親より稼ぐネオニート ~「脱・雇用」時代の若者たち』(扶桑社新書)を読んでいただきたいです。
また、最寄りのゲストハウスを見学したい場合は、下記サイトで検索するといいでしょう。
●ゲストハウス検索
http://guesthousenews.seesaa.net/
●『ゲストハウスに住もう』 『親より稼ぐネオニート』を買う
http://astore.amazon.co.jp/stayinguestho-22
ゼミでは、業界最大手のゲストハウス運営業者「株式会社オークハウス」の代表取締役である山中武志さんをお招きし、最先端のゲストハウス事情についてお話いただくことにしました。
また、なぜ山中さんがゲストハウスの物件開発に10年以上力を注いで来られたのかについてもお話いただこうと思っています。
(つづく)
2007.10.12 00:06
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