細野祐二『司法に経済犯罪は裁けるか』(講談社)読了。
結論は、「裁けない」になりますかね。
理由は、裁判官・検察官は財務諸表が読めないから、だそうです。
経済犯罪の証拠は、財務諸表の中にあるにもかかわらず。
経済犯罪話だけでなく、一般的な司法批判や裁判員制度の話もあって、これはなかなかおもしろかったっす。
例によって、いくつか引用。
鹿児島の選挙違反事件(「踏み字」とかさせたやつね)は、どうして起こったか。
《各都道府県の警察並びに検察組織には、その逮捕・起訴件数に応じて、国庫から特別報奨金が支給される。》(p24)
芋づる式に逮捕者が出る選挙違反事件は、かなりオイシイそうです、警察にとっては。
ノルマがあって、それをクリアするために年度末に頑張るのかと思ってたんだけど、追加給付があるから頑張ってたわけね。
あ。でも、末端には結局ノルマとして下りてくるのか。
ちょいと会計の勉強も。
《恋愛の後結婚することになり、婚約指輪を買うに際して、その婚約指輪が御徒町のガード下で買い叩けば一〇万円で買えることを知りながらも、彼女と一緒にわざわざ銀座の高級宝飾店に行き、同じ指輪を五〇万円も出して買うという現象は、一般に広く認知されているところである。さて、ここでの取引を複式
簿記で仕訳すると、指輪の購入時点の仕訳が(借)貴金属五〇万円(貸)現預金五〇万円となるのであり、ここで時価である一〇万円は複式
簿記の対象にならない。(中略)次に、この男性がこの指輪を女性にプレゼントした時には、(借)交際費五〇万円(貸)貴金属五〇万円という仕訳になるのであり、複式
簿記上この男性の愛の証は五〇万円の貨幣価値として処理されることになる。これを御徒町での時価が一〇万円であるとして、一〇万円の交際費として処理するとすれば、それはこの男女関係における愛の経済実態を反映しないことになるであろう。第一、この男性に失礼ではないか。》(p92)
最後の一文がおもしろかったので引用してみました。
著者いわく、「それなのに検察は、時価の10万を帳簿に載せねばならんと考えているから、話が噛み合わない」とのこと。
村上ファンドの代表に対する、東京地裁の有罪判決文から。
《「被告人は『ファンドなのだから、安ければ買うし高ければ売るのは当たり前』と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」》(p125)
これ、どう思われます?
激しく賛同?
あるいは、「ん?」と思いました?
株が安ければ買うし、高ければ売る。
これを慄然とするような利益至上主義とすると、たとえば証券会社、きっついすねー。
《村上世彰氏は、逮捕直前の記者会見において、/「私が嫌われるのはたくさん金を儲けたからです。金を儲けるのは悪いことですか?」/と言っている。この村上氏の質問に対して、/「そうだ。金を儲けるのは悪いことなのだ」/とまともに言える経済人など、日本には誰もいない。/先日テレビを見ていたら、ある女性大学教授なるコメンテーターが、/「金を儲けることは、もともと悪いことなのです」/と言っていたので、笑ってしまった。ならばこの人はテレビに出てはいけない。》(p127)
おそらく、「金儲けは悪いことじゃないが、あまりボロ儲けすると、妬まれますよ」ということだろう。でも、人間、妬み嫉みで動いているとは思われたくないので(あるいは自分自身、そんなことでは動いていないと思い込んでいるので)、「正義」を持ち込みたくなっちゃうわけです。
しかし、著者は村上氏を全肯定しているわけではなく、次のように書いています。
《法を犯さないかぎり経済人は何をしてもいいのであり、金を儲けることはすばらしいことである。しかし、金を儲けるときにその金をどうやって儲けたのかということは、常に開示できるものでなければならない。ルールを犯していないのであるから、その金儲けの手法は誰に開示しても何ら差し支えないはずであろう。》(p132)
裁判官の判決文を、もう1つ。
《「自らが極刑となることが予想される重大犯罪について進んで嘘の自白をするとは考えられない」》(p155)
……はあ。そうすかねえ。
さらにもう1つ、これは裁判員制度導入前のリハーサル、模擬裁判における裁判官の発言。
《「証人は
公務員だし、嘘を言う立場にない」》(p200)
……はあ。そうなんすか。
最後に、著者から読者への、逮捕されたときのアドバイス。
《読者が不幸にして事件の容疑者とされた場合、私は、読者が日本の刑事訴訟法が定める被疑者の当然の権利を行使することをお勧めしない。》(p214)
えーと、その前後も激しく引用したい誘惑に駆られますが、ヘタレなんでやめておきます。
そういや、おれ、指10本、すべて指紋とられてるんだよなあ。十何年か前、高速道路に入る前だか出た後だか、シートベルトしてないってんで捕まった。
今から考えると、シートベルト如きで……という気もするが、みなさん、いかがでしょう。