[2007年07月30日(月) ]
[2007年07月25日(水) ]
前回、前々回にメッセージを紹介した、「世界で一番受けたい授業の」一川誠さんは、わたしの大学の同期で、実は顔を合わせる機会があれば、お互いに名字を呼び捨てにする間柄です。大学の学部、大学院と七〜八年間同じキャンパスで過ごしていました。そういうわけで、彼にまつわる思い出を少し書いてみようと思います。この項目では一川さんのことを一川君と書きたいと思います。
のそっとした風貌(失礼!)の一川君とは「酒話の会」と称して月に1回ぐらい飲んでいました。メンバーは他に日置、新見の両君です。主に日置君の下宿で四人で酒宴を開いていたのが確か学部の四回生の頃でしたか。時には「呑海」という安い居酒屋も利用していました。
学部生時代の一川君は、山行会に所属する山男でした。と言っても大学キャンパスでいっこうに顔を見ないというようなことはありませんでした。長期休暇を利用して山行に出かけていたのだと思います。研究室にはよく顔を出していたように思います。反転眼鏡をかける実験に参加していたこともありました。いや、彼ではなく天ケ瀬君や高田君だったかな。ちょっとここの部分の記憶は曖昧です。
前回紹介したように、彼は今では押しも押されぬ気鋭の研究者ですが、学生の頃はそれなりに青春期の試行錯誤を経験していました。学部のコンパで飲みつぶれて「価値観が崩壊した」と言っていたこともあります(−−)何に衝撃を受けたのかは定かではありません(笑)このあたりの事情は彼のメッセージにも何ほどか反映しているようですね。
先ほど書いた酒話の会で、うだうだと夜中まで話し続けていたりもしたのですが、いったい何を話していたのでしょう。心理学科の一川、国史の日置、地理学科の新見、国文のわたしと学科の違う四人がなぜ集まることになったのかもさだかには覚えていません。縁としか言いようがありません。
学部卒業後もしばらくは集まっていたと思いますが、その後、それぞれに忙しくなり、顔を合わせることもなくなっていきましたが、日置君が一川君の近況を知ったのをきっかけに、数年前からまたやりとりが復活し、現在に至っています。先日も久しぶりに四人で顔を合わせたところです。
ちなみに、このブログの写真は、数年前に一川、日置の両君と三人で京都を回ったときに撮った写真で、左が日置君、右が一川君です。場所は南禅寺の水路閣横でした。
先日、日置君が関東に転勤になりましたから、酒話の会メンバーは関西と関東に二人ずつということになります。またいずれ四人で顔を合わせる機会を持ちたいなと思いますが、それぞれに仕事を持つ身です。いつになることやらわかりません。当面は関西と関東に分かれて酒話の会活動をすることになりそうです。
さて、思い出話はこれくらいにして、一川君のメッセージを読んで感じたことを書いてみましょう。
わたしが感じたのは、教養の大事さです。難しい本でも少し背伸びして読む、いろいろなことに開かれた興味を抱く、そうして蓄積していったことが、直接仕事に役立つことはなくとも、何かしらその人を形作っていくのだなあと改めて思いました。
一川君を大学のころから知るわたしとしては、彼がメッセージに書かれてある経験を経てきた人物だということがとてもすんなりと腑に落ちました。彼という人と彼の経験とは分かちがたく結びついていると思うのです。
法律をやるのだから文学なんてどうでもいい、医療に携わるのだからそれ以外のことは必要ない、理数系だから文系のことは知らない、文学をやっているんだから自然科学は知らなくて当然だ…。今の世の中はとかく効率を優先しますから、そんな風に考えてしまいがちですが、それではやはりよくないのではないか、と彼のメッセージを読んで思いました。
実際、生物学者や物理学者の書くものにも驚くほど多くの文学作品への言及がある場合があります。動物行動学者のK・ローレンツ、同じくカール・フォン・フリッシュ、生物学者のジャコブしかりです。裁判官であった倉田卓次、物理学者の寺田寅彦や中谷宇吉郎も、文筆家としての業績を抜きにしてはその人を語れないだろうと思います。作家にして社会科学や理系の素養を身につけておられる方もたくさんおられます。
それらはそれぞれの人の人間の幅、人間性を増す働きをしていて、その結果、その人自身や著作ににじみ出る人間的魅力を増しているように思います。
自分の専門分野が決まれば、当然その分野の最先端の知識をフォローしたり、技術を磨いたりしなければなりません。分野によっては幼い頃からの研鑽が必要になることもあるでしょう。しかし、中学から高校、大学にかけては、やはりさまざまなことに関心を持って、さまざまなことを考えることが必要なのではないかと思います。一川君のメッセージはそのことを如実に示しているのではないでしょうか。
というわけで耽読翫市を標榜する者にふさわしく、背伸びした読書へのいざないをしつつこの項を終えたいと思います(笑)
最後に一川へ。メッセージをありがとう。また会おう!
[2007年07月20日(金) ]
前回に続いて「世界一受けたい授業」でおなじみの一川誠さんへのインタビューです。
自分の進路、お子さんの進路についてあれこれ考えるきっかけになるのではないかと思います。
研究の道に入ろうと思ったきっかけは何ですか?
心理学の勉強を進めるうちに,個人にとって最も身近な事柄であるはずの心や体験について,まだいろんなことが解明されていないのだということが分かってきました.
また,専門家が書いた本や論文,大学での講義で,どうしても納得できないことがいくつもありました.
自分の納得できる答えは本の中にも先生の話の中にも期待できそうにない,自分自身ではっきりさせるしかないと思ったのが,一番重要なきっかけだったと思います.
また,研究でご飯が食べていけるかもしれない,職業として選んでも良い,と思えた最初の経験は,博士課程の1年だったか,学会で発表した時に,いろんな人から面白いと言ってもらえたことですね.
「ウケる」という体験は,研究者にとってモチベーションを上げるためにとても大事なものだと思います.
趣味は何ですか?
大学生時代,友人が演劇をやっていて,そのころから演劇鑑賞が好きになりました.
役者が舞台の上で動き出すだけで,現実とは違った世界が展開されるところなど,とてもスリリングだと思います.
シェイクスピアやチェーホフなどの古典は,同じ演し物でもどのような解釈がなされているのか,各役者の振る舞いが過去の作品の演じ方とどう違うのかを見るのもとても面白いものです.
同様に,音楽のライブの演奏を聴きに行くのも好きです.
同じ曲でも,演奏のたびにアレンジや様々な即興によっていろいろと変わってきますが,その時々の「ノリ」を追いかけて聴くというのも面白いものです.
でも,一番の趣味は研究ですね.
自分が世界で初めて何か,人類にとって意味のある事柄を発見できるかもしれないという興奮は,他ではなかなか味わえないものだと思っています.
中学生・高校生にすすめたい本がありますか?
古典と呼ばれるものをいっぱい読んでほしいと思います.
特に,世界の古典と呼ばれているものは早いうちに読んでほしいと思います.
その読書経験は,世界中のいろんな人と共有できる何かがありますし,実際に世界中のいろんな人達とのコミュニケーションに生きてくるものです.
私の場合,博士号を取った後の3年間はカナダの大学で研究員として働いていたのですが,その間,学生時代に読んでいたフーコーやドストエフスキーなどについて向こうの人達との会話で盛り上がることが多く,そうした議論の中で大事な友人が何人もできました.
こうした古典は人類に共通の財産だなと思いますし,人と人とをつなぐ役割も果たしているのだなと思います.
また,古典の戯曲などは,読むだけではなく,それが演じられているところも観てほしいと思います.
自分の頭の中で展開されていたものとはまた違ったものが見えてくると思いますし,観るたびにいろんな発見があると思います.
中学生・高校生にどんな風に毎日を送っていってほしいですか?
毎日忙しくされている中学生,高校生が多いのではないかと思います.
でも,このくらいの年代の人達がこれほどまでに忙しくしなければならなくなったのは,人間の歴史の中では新しい出来事だと思います.
たぶん,やりたいこと,やろうと思えばできることの数が増えてきたのでしょう.
ただ,やりたいこと,やろうと思えばできることが増えたとしても,1日24時間というところは変えることができません.
すべてをやろうとしても十分な時間はなかなか得られないし,やりたいことをすべてできないのが普通なんだと思います.
やりたいことの中でも優先順位をつけて,自分にとって大事なことから1つずつ片付けていってほしいと思います.
その他、中学生・高校生に言いたいことがあればどうぞ。
人間の心など研究していると,最も身近なものであるはずなのに,まだ随分と分かっていないことが多いと実感させられます.
たぶん,世の中にはまだいろんな謎,不思議があるのだと思います.
「世界なんてこんなもの」と斜に構えることなく,いろんなことについて学び,世界のいろんな新しい側面を見ようと努力して欲しいと思います.
そうした努力をしていると,いろんなことを発見できると思います.
発見があると,そこには必ずいろんな感動があります.
また,その発見を他の人に伝えることができれば,感動を他の人と共有できるかも知れません.
そうした体験を通して,学び,探求することの楽しみを知ってほしいなと思います.
以上で二回にわたった一川さんのメッセージは終わりです。みなさんはこれを読んで何を感じられたでしょうか。わたしが思ったこと、感じたことは次回に記したいと思います。
一川さん、興味深いメッセージをありがとうございました。
[2007年07月17日(火) ]
千葉大学准教授の一川誠さんが、中学生・高校生に向けてのメッセージを一問一答の形式で寄せてくださいました。一川さんは、先日(7月14日)の「世界一受けたい授業」(日本テレビ)に登場された先生です。2005年5月の同番組にも登場しておられますから、二回目の登場ということになります。両回とも人間の時間感覚や知覚の処理についての興味深い映像や現象が紹介されていました。
その他にも2003年に日本科学未来館などで行われた「時間旅行」展- TIME! TIME! TIME!のナビゲーターをつとめておられました。昨年暮れにはジャーナリストの池上彰さんとの共著『大人になると、なぜ1年が短くなるのか? 』(宝島社)を出版されるなど多彩な活躍をしておられる気鋭の研究者です。
何を隠そう、いや、隠すまでもないことですが、一川さんはわたしの大学の同期で、大学、大学院の何年間かを同じキャンパスで過ごしていました。そのあたりの思い出話は別の機会に譲るとして、まずは一川さんとの一問一答を御覧下さい。学生生活の過ごし方、中学や高校の頃の興味が将来とつながることがあること、専門的なことだけではなく、実は教養的なものごとも社会生活を行う上では重要になってくることなど、さまざまなことを考えさせてくれるメッセージになっているかと思います。
とても丁寧に回答を書いてくださっているので、今回と次回の二回に分けてご紹介します。
今の勤務先は?
昨年までは国立大学法人の工学部にいました.
とてもユニークで面白い職場でしたが,昨年,いろいろと思うところがあって別の国立大学法人の文学部に移りました.
職場が変わる前は,工学部の中での唯一の心理学者でしたが,今は大勢の心理学講座のスタッフのうちの1人という状況です.
どんなことを研究していますか?
実験を行なって人間の心や行動の特性を調べる実験心理学という分野の研究を行っています.
「心理学」と聞くと,カウンセリングのように個々の人の心の問題に対処する臨床的学問を思い浮かべる人が多いと思いますが,実験心理学は自然科学として人間全体に共通する心の一般的特性について探求する自然科学の一分野です.
今は特に,「見る」とはどういうことか,時間や空間の感じ方,映像や音楽の印象の決まり方における規則性,うっかりミスの起こり方やその回避の方法などといった問題について実験的に検討しています(研究の内容についてもっと詳しく知りたい方は,以下のサイトを参照してください.http: //www.psy.l.chiba-u.ac.jp/labo/vision2/).
中学生・高校生のころはどんな生活を送っていましたか?
中学校は歩いて5分ほどのところにあったんですが,よく寝坊して遅刻していましたね.
美術部に入っていたのですが,その当時から「見る」とはどういうことかに興味を持っていました.
また,放課後は地元の剣道場に通っていましたし,週末はボーイスカウト活動に参加していたので,今から思うとけっこう忙しい中学時代だったと思います.
高校は高校は片道1時間ほどかけて大阪から京都まで電車通学していました.
遠い学校に通うとなると,かえってあまり遅刻しなくなりましたね.
自由な雰囲気の高校でしたので,時々学校を抜け出しては美術館やお寺などに行ったりしていました.
そのころの愛読書があれば教えて下さい。
高校時代は小林秀雄の評論をよく読んでいました.
現代国語の入試によく出題されるということを聞いていたので受験対策という意識で読んでいたところもあったかもしれませんが,一人の作家が書いたものをいくつもじっくりと読んでいくというのは面白い体験でした.
評論や随筆を読むことには筆者との対話のようなところがあって,中学のころまで読んでいた小説とは違う読書の楽しみもあるのだと感じました.
また,小林秀雄ともつながりがある人物ですが,中原中也関連の本も読んでいました(自分の通っていた高校の先輩だったので,何となく興味を持って).
本人の詩集だけではなく,彼に関する評論なども,興味を感じて眼を通していました.
同じ詩や詩人について,どのような読まれ方をしているのか知るのは面白かったですし,その読み方に自分が共感できるか考えるのも楽しかったですね.
ブルーバックス程度の内容ですが,相対論などの物理学や天文学関連の本なども好きでよく読んでいました.
大学受験の勉強はいつぐらいから始めましたか?
高校1年のころから予備校の夏期講習などに通っていました.
でも,受験勉強を本格的に始めたのは高校3年生になってからですね.
高校入学当初から大学に行くことは漠然と決めていましたが,大学で何を学ぶかなかなか決められませんでした.
物理学にも興味がありましたが,法律家になるのも良いかなと考えていました.
高校3年生になる頃に,ようやく大学では心理学か法学を勉強しようと決心し,そのころから文系の学部受験に向けた勉強を始めました.
大学ではどんな生活を送っていましたか?
いろんな同級生,先輩達がいて、とても刺激を受けました.
特に1〜2年生の時期は,いろんな人やいろんな本との付き合い,講義,サークルなどでいろんな情報を得て,それを消化しきれずに悶々としていましたね.
3年生以降は少しずつ自分のしたいことが見えてきて,4年生になる前にはもう大学院に進んで実験心理学の研究をしようと決めていました.
自分の興味のあることには熱心でしたが,先生から出された課題などは適当に済ますところがありました.
あまり真面目な学生ではなかったので,大学院に進むということについて指導の先生に相談した時には,少し困っておられたようです.
今は学生を指導する立場ですが,学生時代の自分のことを考えると,やっつけ仕事で課題を済ましてしまう学生でも冷たくはあしらえませんね.
そのころの愛読書があれば教えて下さい。
入学してすぐに文学部の先輩に教えてもらった岸田秀さんの『ものぐさ精神分析』『続・ものぐさ精神分析』には随分影響を受けましたね(実験心理学の専門家としてお薦めできる本ではありませんが).
当時,「ニュー・アカデミズム(通称ニューアカ)」の流行の収まりつつある時期でしたが,浅田彰さんの『構造と力』なども,今にして思うと,けっこう影響を受けていたんだなと思います.
ちょっとベタですが,ドストエフスキーの『悪霊』や『白痴』,『カラマーゾフの兄弟』,カミュの『シジフォスの神話』などもこの時期に読んでとても影響を受けました.
ハイデガーの『存在と時間』,デカルトの『方法序説』なども,悶々とした頭と心を整理するのにはとても役に立ってくれました.
また,学部生時代に『性の歴史』の訳本が出版されたフーコーもよく読んでいましたね(いずれも翻訳本ですが).
研究関連では,大学4年生になったころから,専門分野の英語の論文を毎週1本程度のペースで読んでいました.
研究雑誌(定期刊行物)に掲載される論文です.
中には長ったらしくて,意味がよく分からないものもあったので,けっこう苦労しました.
じっくり読むのが良い論文と,ざっと眼を通すだけの論文の見分けがつくようになったのは大学院の後期課程(いわゆる博士課程)に進んでからだったと思います.
今は自分で論文を書く機会が増えましたが,学生の読者のことも考えて,彼らが面白く読めるようなものを書ければと考えています.