長女は高校で政治経済を履修している。
入試で使う予定はなく、比較的気楽に授業を聞いているらしい。
「福田首相の辞任が大きなニュースになっているから、当然、政治経済の授業で説明があるかと思ったら、まったく触れられなかった。」
長女は不満のようだ。
政治経済の教師であるなら、首相交代という重大事に関心がないはずがない。
幾とおりにも語りようがあるのではないかと思う。
まず、日本国憲法が規定する内閣総理大臣の地位の確認から入るのが妥当だろう。
内閣総理大臣は、国会、とりわけ衆議院の信任を基盤としている。
福田首相の場合、参議院では与党が少数であり、国会運営には苦労してきた。
しかし、衆議院では与党が3分の2以上の多数を占めており、
テロ特措法もガソリンの暫定税率を定めた租税特別措置法も衆議院の再議決で成立させることができた。
参議院が問責決議案を決議しても、法的拘束力はなく、動じることはなかった。
憲法が規定する「衆議院の優越」をフルに使って難局を乗り切ってきたということになる。
しかし、衆議院の3分の2という与党の議席は自前で稼いだものではない。
小泉首相が衆議院を解散して郵政民営化の可否を問うた結果もたらされたものである。
その後、安倍首相のときに参議院選で与党が敗北しているのだから、
衆議院で示された民意は、もはや賞味期限切れというべきであろう。
(内閣支持率が高ければ野党の抵抗姿勢もやわらいだはず)
その衆議院議員の任期も来年9月に切れる。
1年のうちに衆議院総選挙を行なわなければならないが、
世論調査を見ても与党が3分の2を維持することは難しい。
野党が衆議院の過半数を制し、政権を奪取する可能性のほうが高い。
そんな中、自民党と連立政権の一翼を担う公明党との足並みの乱れが大きくなった。
公明党はテロ特措法の再延長に難色を示し、減税を要求したのだという。
平和と福祉を掲げる公明党としては、自民党の政策に従うだけでは、
その存在意義を失うという恐れがあってのことだろう。
自民党内にも財政再建、景気回復どちらが優先かという路線対立がある。
内閣改造したとたん、農林水産大臣の事務所費疑惑勃発。
八方塞の中で福田首相が選んだのは、民主党の小沢代表再選のニュース価値を吹き飛ばすタイミングでの辞任表明だった。
もし、自分が高校生に政治経済の授業の中で福田首相の辞任を解説するとしたら、どんな筋立てにするか考えてみたが、やはり、生の政治を扱うのは難しい。
昔、マックス・ウェーバーの「職業としての学問」という本を読んだが、
そこに「価値自由」という考え方があったことを思い出す。
価値自由とは、教師は政治的な価値判断を講義の中で主張してはならないというものだ。
長女の政治経済の教師が生の政治的な素材に触れないのは、そうした思いがあってのことかもしれない。