高田理惠子著「学歴・階級・軍隊」(中公新書)を読んだ。
サブタイトルは「高学歴兵士たちの憂鬱な日常」とある。
戦前、国民皆兵がたてまえではあったが、
大学生などの学生は徴兵を猶予されていた。
ところが、戦局が悪化し、兵の補給がままならなくなると、
文科の学生も徴兵されるようになった。
(理科の学生の猶予は維持された。)
学徒出陣である。
その遺稿集「きけ、わだつみのこえ」は大ベストセラーになった。
志なかばにして戦地に赴き、死を覚悟せざるをえなかった若者たちの思いは痛切である。
ただ、学生以外の一般の兵士も同様に痛切な思いを抱いていたということは忘れてはならない。
当時の大学生は相当のエリートであった。
旧制高校の試験は現代の難関大学入試と同じ、いやそれ以上に苛烈であった。
ただ、高校から大学への進学は比較的容易であったというから、
高校生は寮の中でいささか浮世離れをした高踏的な議論に明け暮れることができた。
だから、学生の自負は強烈であり、軍国主義が高揚する中にあっても、
軍事教練に対して批判的でいられた。
ところが、最高学府に学んだという経歴があっても、
入営したての二等兵なら軍隊内では最下級である。
彼らのエリート意識が強烈であればあるだけ、反発を食らうのは当然だろう。
古参兵の新兵いじめはすさまじかったようだが、帝大出はその格好の標的とされた。
いじめを免れるためには、古参兵の肩をもむなど媚びを売るしかなかった。
実際、高学歴兵士はあまり優秀な兵士とはいえなかったようだ。
兵士は上官の命令を疑うことを禁じられている。
突撃命令があれば、突撃するだけでいい。
ところが、高学歴兵士は、自ら考える訓練を積んでいる。
肉の弾丸となるようには育っていないのだ。
やがて陸軍も海軍同様に幹部候補生として下士官になる優遇策も取られるようになり、高学歴の二等兵が生まれた期間はごく短かったようだ。
学徒出陣世代はもっとも「貧乏くじ」を引いた世代なのだそうである。
それを山崎晃嗣に象徴させるのも、少し酷なような気がする。
山崎晃嗣とは東大生社長を看板に金融会社「光クラブ」を立ち上げ、多額な資金を調達するが、物価統制令違反で逮捕され、自殺したという人物で、三島由紀夫の「青の時代」のモデルとされる。
長くなったが、一箇所引用してみよう。
「もし若い高学歴兵士たちが「お母さん」と言って死んでいったならば、それは母を愛しているからというより、母が自分を愛していること、自分の人生が母の人生になっていることを知っているから、「お母さん、ごめんなさい」という意味の叫びだったのではないだろうか。」
なかなか辛辣な本である。