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「県犬養橘三千代」と「天平の三姉妹」

日曜日の朝、本を読んでいたら、妻に聞かれた。
「それ、人の名前?」
義江明子著「県犬養橘三千代」(吉川弘文館人物叢書)のタイトルについてである。
「もちろん。」
「何て読むの?」
「あがたいぬかいたちばなのみちよ。」
「それで一人分?」
「そうだよ。県犬養氏というのは、番犬を育てる県犬養部を率いた氏族だ。その県犬養氏に生まれた三千代という女性は、文武天皇の乳母として宮廷に入った。文武天皇の母、元明天皇の信任が厚く、女官を統率して絶大な権威をもち‥‥」
そう、話しはじめたとたん、「もう、いい。」と遮られてしまった。
まだ、何も説明していないではないか。
三千代がもとは美努王という皇族と結婚し、葛城王らを生んでいることも、
藤原不比等の夫人となって光明子を産み、光明子は聖武天皇の皇后となったことも、
橘は三千代の長年の功により特別に与えられた姓であることも、
葛城王は臣籍にくだり、橘姓を継いで橘諸兄になったことも、
橘諸兄は藤原四兄弟があいついでなくなった後、朝廷の中心となり聖武天皇を補佐したことも、
しかし、諸兄の子、奈良麻呂は孝謙天皇に謀反を企てたが失敗したことも‥‥。

午後、読んだのは遠山美都男著「天平の三姉妹」(中公新書)である。
傍らの妻は、もう何も問わない。
三姉妹とは、聖武天皇の三人の娘、孝謙天皇(重祚して称徳天皇)、井上内親王、不破内親王をさす。
三千代は光明子とは別に県犬養氏の娘も聖武天皇の後宮に入れた。
それが、井上内親王、不破内親王の母である。
孝謙天皇は皇位を継いだが、結婚しなかった。
井上内親王、不破内親王はどちらも皇族と結婚した。
つまり、次代の天皇は井上内親王、不破内親王側に移る可能性が大きかったということだ。
しかし、不破内親王の夫の塩焼王は藤原仲麻呂の乱に加担して殺される。
孝謙天皇(称徳天皇)には、自分こそ正統な天皇であるという強烈な自負があった。
だから、淳仁天皇を廃位するのも、僧の道鏡に皇位を継がせるのも意のままと考えていた。
無論、藤原氏が黙って従うはずがない。
称徳天皇の死後、即位したのは、井上内親王の夫、光仁天皇だった。
子の他戸親王も皇太子となる。
著者は、光仁天皇の即位について、皇統が天武系から天智系に替わったのではなく、あくまで、聖武の娘婿として皇位を継承したと考えるべきだと主張する。
では、最後に勝利したのは、井上内親王か。
いや、何と、井上内親王は皇后でありながら光仁天皇を呪詛したという疑いで幽閉され、不審な死を遂げる。
そして、怨霊となる。

平城遷都1300年。
「天平の三姉妹」といえば、華やかな宮廷物語を想像しがちだが、とんでもない。



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この記事へのコメント

  • 1,
  • ささらのひめみこさん
  • 2010/04/10 18:05
「県犬養三千代」で検索しておじゃましました。
最近7世紀の東アジアにはまっていて、三千代さんのことも俄然興味が沸いてきたところです。
奥様は、この手のことにあまり興味がないのでしょうか。
我が家は逆で、私がこんな本ばかり読んでいると夫は不機嫌です。
私だったら、歴史に詳しい旦那様なら、それだけで尊敬に値するのに、お互いもったいないことで。
「天平の三姉妹」も読みたい本リストに入っています。
ますます読みたくなりました。

  • 2,
  • シルバーバックさん
  • 2010/04/12 13:06
ささらのひめみこ様、コメントありがとうございました。
「7世紀の東アジア」に興味をお持ちだとのこと、確かにこの時代は唐、新羅といった国との関係を知らないと歴史もわかりにくいですからね。「日本」という国の誕生も、こうした東アジアの緊張関係の中で考えるべきでしょう。‥‥などと偉そうなことを言ってしまうので、妻には敬遠されるのかもしれません。
奈良時代は、女帝があいつぎました。それは、ささらのひめみこ様の草壁皇子への愛がもたらしたものかもしれませんね。
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