トリツカレ男(女)になる[2008年02月28日(木) ]

キャリア・アドバイザーの松尾順です。


作家、いしいしんじ氏の作品のひとつに、

「トリツカレ男」

という奇妙なタイトルの小説があります。

小説というよりも、「寓話」と呼びたい小品。
シンプルなストーリーの恋物語です。

「トリツカレ男」は、
昨年後半、演劇集団「キャラメルボックス」によって演劇化・上演され、私も1度観にいきました。
オリジナルの小説も、また演劇も、どちらも終わった後にほんのり心が暖かくなる、なかなか味わい深い作品です。



さて、この小説の主人公は、

「ジュゼッペ」

という青年です。

彼の住む街がどこなかは小説では書かれていませんが、キャラメルボックスでは、イタリアの田舎町という設定でした。

周囲の人は彼のことを「トリツカレ男」と呼んでいました。なぜなら、彼はあることに熱中すると、1日中そのことしか頭に考えられなくなるタイプだったからです。彼が取り付かれたものと言えば、たとえば、外国語学習や、オペラ、三段跳びなどなど。


ジュゼッペは、自分が興味を持ったことに、脈絡もなくまさに‘トリツカレ’たようにのめりこみます。彼はレストランのウェイターのアルバイトをしているのですが、熱中しすぎて時間を忘れ、たびたび仕事に遅刻して怒られています。

でも、それだけのめりこんだ結果、どんな分野でも短期間で高い能力・技能を身につけることに成功するのです。三段跳びなどは、当時の世界記録を超える距離を跳べるようになったほど。しばらくすると、また別の面白そうなことを見つけ、あっけなく熱中の対象を切り替えてしまうのですが(三段跳びも、世界記録に正式に挑戦する前に止めてしまいました)。


そんな子供のような純粋さを持つジュゼッペが、ある日、「ペチカ」というロシアからやってきた女性と出会い、彼女に‘取り付かれて’しまいます。つまり恋に落ちてしまうわけですね。

ペチカは知らない土地に来たばかりでしたし、事情があって生活に苦労していました。しかも、カタコトしか現地の言葉がしゃべれず、友だちもいなかったのです。

でも、ジュゼッペは昔取った杵柄、ロシア語で話すことができたこともあって彼女の友だちになります。以来、ペチカを幸せにしたいと願うジュゼッペは、彼がこれまでに身につけた様々な「特技」を活かして、彼女の苦境を救い、ハッピーエンドを迎えることになるのですが、興味のある方は本を読んでくださいね。



さて、この本をご紹介したのは、「トリツカレ男」という言葉が、キャリアデザインにおいて重要なヒントを与えてくれるからなんです。

「好きこそモノの上手なれ」という諺がありますよね。

ジュゼッペのように、その対象が大好きで、まるで‘トリツカレ’たように寝食を忘れて取り組めるなら、誰よりも高い能力を獲得できるし、優れた成果にもつながる。しかも、たとえ長時間働いていても、ストレスはほとんどなく、ワクワクしてハッピーな状態でいられる。

キャリアデザインの理想像は、そんな「トリツカレ男(女)になること」ではないかと私は思うのです。


この「トリツカレ」というのは心のどんな働きなのか、少し専門的に説明すると、

「動機」(Motive)

と呼ばれるものと関係があります。

「動機」は、あなたの心理のもっとも奥深いところにある欲求であり、あなたの行動を揺り動かすもの。

この動機には様々なタイプがあり、たとえば、

 自分を表現したい
 相手を説得したい
 相手の気持ちを汲み取りたい

などです。そして、こうした動機は人によって強弱があります。


普段、上記のような動機を意識していて行動している人はあまりいないと思いますが、自分が無意識にやってしまうこと、時間を忘れてやってしまう行動の奥には、あなたの持っている強い「動機」が隠れています。

もし、あなたが、自分の考えが相手に受け入れてもらえるような話し方をすることが多く、その結果、相手が自分に同調してくれると「やった!」と感じるようなら、あなたは「説得したい」という動機が強い人だということです。

このような人は、外回り主体の営業の仕事に対する適性があることがわかりますよね。セールス相手を説得し、契約を得ることに無上の喜びを感じることができるわけですから。

また、誰かと話している時、いつも「相手はどんな考えや願いを持っているのだろう」と無意識に考えてしまうような人は、「相手の気持ちを汲み取りたい」という動機が強い人です。

こんな人はホテルや飲食店などの接客サービスの仕事に就けば成長が早いでしょうし、優れた業績を残せる可能性が高いですね。


このように自分の動機が何かを知り、その動機に合致した行動が要求される仕事(職種)に就ければ、それこそ‘トリツカレタ’ように働けます。

ワクワクと充実した毎日。しかも高い成果につながって周囲からも評価される。

キャリアデザインの理想像は「トリツカレ男(女)になること」だという私の考えがご理解いただけるでしょうか。

なお、「動機」については、次回に補足説明したいと思います。



 ■関連リンク
 「いしいしんじのごはん日記」

就職と結婚の類似点[2008年02月21日(木) ]

キャリア・アドバイザーの松尾順です。


“「就職」と「結婚」は同じようなもの”

というのは、結構昔から言われてきたことだと思います。

ただし、

「それはお互いに相手のことを気に入った場合に
うまくいくんだよ」といった意味で似ていると
思っている人が多いんじゃないでしょうか。


確かにその通りなのですが、
私はもうひとつ別の視点で、「就職と結婚の類似点」を
説明してみたいと思います。

それは、就職と結婚はどちらも赤の他人との共同生活の
始まりであり、相手との良好な関係づくりのための
継続的な努力が求められる
ということです。


さて、就職にしろ、結婚にしろ、
そこにこぎつけるまでは山あり谷ありです。
いろいろ大変な思いをします。
すんなり決まるケースは少ないでしょう。

結婚のことをしばしば「ゴールイン」とも言いますね。
就職も同様に、決まった瞬間には
“ようやく「ゴール」にたどりついた”
という気分になるのも無理ありません。

実際、私自身も就職が決まった時、そして結婚する時、
ちょっとほっとして、まさにゴールインした気分になりました。


ただ、当時は経験不足でよく理解できておらず、
ずいぶん後になって気づいたのは、

就職は「仕事生活」、また結婚は「結婚生活」という
新生活の出発点に過ぎない


という点です。

就職も結婚も、相手(会社の人たち、配偶者)と
活動(生活)の場所(事務所、自宅など)を共有し、
1日のほとんどの時間を共に過ごす毎日が始まるわけです。

価値観の異なる赤の他人との共同生活ですから、
仕事生活、結婚生活を長続きさせるためには、
お互いの考え方の違いや相手に求めていることなどを理解し、
時に意見が合わずにもめることがあるとしても、
最終的には双方にとってハッピーな結論に落ち着くことが
できるような「建設的な関係」が重要
になってきます。

つまり、共同生活をする相手との良好な関係を形成し
維持する努力を継続的に求められる

それが「就職」であり「結婚」なのです。


ですから、

いい会社に決まったから私のキャリアは順風満帆だ

あるいは、

最高のパートナーと結婚できたからばら色の人生が送れる!

などと、あまりにも楽観的に構えてしまうと、
就職後、結婚後に大きな失望が待っています。

「こんなはずじゃなかった・・・」

恥ずかしながら、
私も最初の就職ではそんな挫折感を味わいましたし、
結婚生活でも、お互いの違いをなかなか理解しあえない、
認めあえない時期が続きました(最近になってようやく、
かなりいい関係になってきましたが・・・)。


就職する前、結婚する前の段階で、
どんなに相手との相性の良さや価値観の一致度合いを
見極めようとしても限界があります。

実際に長い時間一緒に過ごしてみて、
そして、様々な出来事に直面した時に初めてわかる
相手の新たな価値観や行動のクセがあるものです。

もちろん、事前に十分に話し合い、
お互いに絶対に譲れない点で大きな違いがないかを
確認する必要はあります。

しかし、いったん就職、結婚に踏み切ったら、
日々新たに判明する相手の意外な側面を素直に受け止め、
理解しようとし、できるだけいい関係が作れるように
がんばってみようという心構えが必要なのです。

逆に、そんな心構えを持たず、
自分にとっての理想の会社、理想の結婚相手を
求めてしまうとうまくいきません。
それは、相手に対して、一方的に自分の理想像どおりに
振舞うことを期待していることになるからです(そんな、
自分の思い通りになる会社やパートナーは絶対にいません)。


いい関係が作れるようにしばらくがんばってみた。
でも、やはりこれ以上一緒にいても(この会社に留まっても)、
双方ともハッピーな毎日が送れそうにもないと感じたら、
転職、離婚するのもやむを得ないとは思います。

しかし、まずは、就職も結婚も、

行動(生活)を共することになる赤の他人との
良好な関係作りを始める出発点である


という認識を持っておくことをお勧めします。

まだこの先に何かある精神[2008年02月14日(木) ]

キャリア・アドバイザーの松尾順です。


学問、芸術、スポーツ、ビジネス、どのような世界であれ、長期間にわたって高い成果を出し続けている人に共通していることは、

「現状に満足しないこと」

だとよく言われます。


実際、スポーツ選手がオリンピックなどの大試合でメダルを獲得した時、無邪気に大喜びするだけの人はたいていその大会で燃え尽きてしまっていて、次の大会では若手の有望選手にあっというまに抜かれてしまいます。

一方、4年に1回のオリンピックに2回、3回と出場して連覇するような選手になると、もちろんメダルを手にした瞬間の喜びは隠さないものの、全体に抑え気味でクールな印象を与えることが多いですね。


周囲からどんなに賞賛されても、

「いやあ、まだまだですよ」

などという発言を聞くとその謙虚さに心打たれます。

おそらく、彼らは現状に満足してしまったら、やる気を維持できないことがわかっているのです。だから、意識的に自分を戒めているのでしょう。



私は、こうした気持ちが、継続的に成長し続ける原動力になっているのだと思っていました。

とはいえ、傍から見ていて

「現状に満足しない」

という否定的な感情を持つことは結構厳しいことだなぁ
とも感じていたのです。

血のにじむような努力を重ねて賞賛に値する結果を出したのに、自分を抑制してストイックに振舞う。

「楽しいことが少なく、つらいばっかりじゃないのか・・・」


ところが、達人の域に達した人の場合は、どうやらそうした「現状否定」が原動力になっていないことが最近わかりました。

達人たちが、高い成果を出してもそれほど喜ばないのは、自分を抑えているわけでも、現状に不満があるからではないのです。

「まだこの先に何かあるはずだ」

という「飽くなき探求心」とでも呼べる思いが強いため、もはや過去のものとなった現在の成果に関心がないだけ。すでにその先しか見ていないからだったのです。


達人は、これまで自分がやり遂げてきたことに対して揺らがぬ自信を持っています。十分に満足もしている。

それでも、この先、奥深いところに何か新しい発見があるはず。
それを見極めたいという気持ちが成長を支えているのです。

しかも、その何かを見極めようとする過程は、達人にとっては実にわくわくする楽しいことなのです。

ですから、何十年もの間、自分の専門分野に専心できるというわけです。



2007年にリリースされた『東京ミシュランガイド』で、三ツ星を獲得した「すきやばし次郎」の店主にして、すし職人の頂点に立つ小野二郎氏はすし一筋50年以上、80歳を過ぎてた今でも、さらにおいしい寿司をお客さんに提供すべく日々工夫を重ねています。

小野氏は、そうした工夫を続けることについて、

「まだこの先に何かあるはずだ」

という思いが自分を動かしているのだそうです。


何事にも、本当の意味での終わりはないと思います。
いくらでも深めていくことができる。

つまり、終わりかどうかを判断するのは、取り組む本人次第なのです。

「現状に満足しない」のではなく、

「まだこの先に何かある精神」

というポジティブな心を持ち続けている人の人生に退屈はありません。


わくわく楽しい毎日が送れるのです。

価値観の鍛え方[2008年02月07日(木) ]

キャリア・アドバイザーの松尾順です。


私は、仕事(職業)を選ぶ上で一番大事なことは、

「その仕事は、あなたの好きなことか」

ということだと思っています。
ただし、

「その仕事は、あなたの得意なことか」

また、

「その仕事は、社会(他人)の役に立つことか(必要とされることか)」

を加えた3つの点で考慮するということは、前回の「好きを貫く」でご説明しましたね。



さて、「その仕事は、あなたの好きなことか」、言い換えると「自分はどんな仕事をやりたいのか?」というのは、あなた自身の「価値観」に関わる問いです。というのも、「価値観」は、ある行動をする・しないの判断基準になるからです。

例えば、「地球環境を守りたい」という価値観を持っている人は、その価値観に沿って、植林ボランティアに参加する、あるいは、無駄なゴミは出さないといった行動を進んで選択する、というようにです。

同様に、仕事についての明確な価値観を持っていれば、「自分はどんな仕事をやりたいのか」という問いに困ることはないはずですよね。

でも、実際には、この問いほど難しいものはありません。

特に20代の若い人たちにとっては、「自分は何をやりたいかよくわからない」ということで苦しむものです。私自身の20代も同じ苦しみを抱えていました。なぜなら、若いうちはまだ、「価値観」が確立されていないからです。

ですから、「自分はどんな仕事をやりたいのか」に明快に答えられるようになり、そのやりたい仕事を目指してがんばれるようになるためには、普段から意識して自分の「価値観」を鍛えることが必要だと思っています。自分の価値観を鍛えるというのは、日本刀を鍛えるように、切れ味鋭い自分なりの判断基準を持つということです。

ではどうやって鍛えたらいいと思いますか?



その答えは、自分で考えて判断する、自分で決める機会を増やすことです。

日常の何気ないことでもいいのです。というか、日ごろから自分で判断する癖をつけるため、むしろ一番身近なところから始めるべきかもしれません。

例えば、仲間とランチに行った時、友人が「A定食」と言ったら、「じゃあ僕もAで!」と無意識に合わせるのをやめましょう。自分で何を食べたいかをちゃんと考えた結果として同じ注文になるのはいいのですが、考えるのが面倒だからと周囲に流されないことです。

私たちの毎日の生活は、仕事にしろプライベートにしろ、選択の連続ですよね。何かを選び、何かをあきらめなければなりません。ですから、どれにしようかと悩むのはいいことです。落ち込まない限りは、とことん悩む。しかし、期限までにはいさぎよく最善と思われる決断を行う。

これを繰り返すことを通じて、自分の価値観、すなわち、自分がなにが好きなのか、嫌いなのか、何がやりたいのか、やりたくないのか、を自分で明確に自覚できるようになってきます。

なお、「転職」時って、まさに今の会社にとどまるか、新天地を目指すかという選択を迫られるという点で、価値観を鍛える絶好の機会です。もし現在、あなたが転職を考えているのならとことん考え尽くすといいと思います。

また、あまりにも仕事が忙しくて目先の判断だけに追われていると、「自分の人生における仕事」という大きな視点での価値観が明確にならないまま、流されてしまいます。

ですから、できればたまに長めの休みを取って仕事から完全に離れ、「今の仕事や生き方で自分は満足か、死ぬ時に後悔しないだろうか」と自問自答してみるのも、価値観を鍛えるのに有効です。