心の筋トレ理論[2007年06月28日(木) ]

※この記事は2007年6月28日に「キャリアでざいんBOX」で掲載されたものです。


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。


先日、ある人材紹介会社が主催するキャリアセミナーで、パネルディスカッションのコーディネーターを務めさせていただきました。このパネルディスカッションに参加された、『日経ビジネスアソシエ』編集長、渋谷和宏氏のコメントの中で、深く記憶に残った言葉がひとつあります。それは、「傷ついたもの勝ち!」という一言です。



あなたも、仕事の上で何か痛い経験を一度や二度はしたことがあると思います。もちろん、実際、体のどこかに怪我をするという意味ではなくて、大失敗して落ち込んだり、苦しんだりして、精神的に傷つくことです。


そうした痛い経験の最中って、本当につらいですよね。でも、後で振り返って見た時、こうした「つらい経験」が、自分を成長させてくれたのだということに気付くことが多いのではないでしょうか。よく言われることですが、「成功よりも、失敗からのほうが学べることは多い」というのは真実だと思います。だから「傷ついたもの勝ち!」なんです。



さて、渋谷編集長が最も傷ついたのは、『日経ビジネス』等の雑誌記者を経て書籍の出版に携わった時期です。「売れる」と信じて出版した本の売れ行きがはかばかしくない時、担当した編集者は文字通り針のむしろの上にいるような気分を味わうそうです。社内ですれ違う上司や同僚の視線が痛い。「君の本、売れてないね」みたいに、からかう人もいました。このため、渋谷さんは胃がキリキリ痛むような思いをされたんじゃないかと思います。


おかげで、本を売るのがいかに大変なのかを渋谷さんは身を持って経験しました。この大変さは、それまで安定した読者がいる定期購読の専門誌担当でしたから、実感としてはわかっていなかったことでした。しかし、このつらい経験は、後に、20-30代向けの男性ビジネス誌『日経ビジネスアソシエ』の発刊を成功に導く上で貴重な教訓となったのです。



実は、私も、「傷ついたもの勝ち!」と同じような考え方を持っています。それは、「心の筋トレ理論」です。毎度ながらの「なんちゃって理論」ですが(笑)、「心の筋トレ」という表現は、私以外にも使われている方がいらっしゃいますね。それぞれ独自の解釈で語られているようですが、私の解釈は正統派です。


ご存知の通り、筋肉トレーニングの目的は、筋肉量を増やすことですよね。そのためにバーベルやダンベルなどの重量負荷をかけるわけですが、その時、体の中では何が起きているかご存知ですか?実は、負荷をかけると筋肉は切れてしまうのです。つまり、筋肉トレーニングとは、実質的に筋肉を傷つけることです。でも、その後、その切れた筋肉が修復されると、傷つく前よりも一回り太い筋肉になっています。つまり、傷つけることによって筋肉は太く強くなっていくのです。


心も同じです。たとえ傷ついてもそこから回復した時、あなたの心は一回り図太くなっています。以前よりもへこたれない強い心です。だから、傷つくことを恐れる必要はありません。傷つくようなつらい体験は、心を強くするかけがえのない機会です。望んでつらい体験をせよとは言いませんが、「傷ついたもの勝ち!」と考えて、試練に立ち向かっていくのです。


なお、筋肉トレーニング同様、傷ついた状態から回復するためには休養が必要です。心が痛んだら、回復するための十分な休養を取りましょう。

キャリアの賞味期限の延ばし方[2007年06月21日(木) ]

※この記事は2007年6月21日に「キャリアでざいんBOX」で掲載されたものです。


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾です。


ケーキ屋やスーパーの生鮮コーナー等に置いてある商品には、賞味期限がシールで貼り付けてありますよね。店によっては、売れ残りの商品に再度新しいシールを貼って、賞味期限をこっそり延ばすところがあるそうです。食品メーカーの中にも、返品されてきた商品に、最新の製造年月日や賞味期限のシールを貼り直して再出荷していた事実が、内部告発で暴露されたところがありましたね。実に悪質な行為ですが、いくら見かけだけ賞味期限を延ばしても、食品はいつか必ず腐敗してしまいます。



さて、「人間にも賞味期限がある」という、ショッキングな言葉をズバリと投げかけるのは、前回もご紹介した元吉本興業常務の木村政雄氏です。私も、初めて聞いた時には、「きつい言葉だなあ」と思いました。しかし、現実を直視するにはこのくらい厳しい言葉を受け止める必要があるかもしれません。


今、あなたがどんなに優れた知識やスキルを持っていたとしても、未来永劫ずっと通用することはまずありません。いつか必ず、時代遅れとなり、役に立たなくなってしまう日がやってきます。


木村氏の場合、栄枯盛衰の激しいタレントの世界にいらしたので、とりわけ「人間の賞味期限」について実感される機会が多かったんだと思います。絶大な人気を誇ったお笑い芸人やタレントが、たちまち消えてしまう。エンタテイメントの世界は、実に賞味期限が短いのです。ところが、そんな厳しい世界でも、ビートたけし(北野武)のように、俳優、監督としても活躍し、長期にわたって人気を維持することのできる人もいます。



長期にわたって人気を維持しているタレントやアーティストは、それだけの多彩な才能をはじめから備えていたのかもしれません。しかし、現状の人気に溺れてしまうことなく、さまざまな潜在的な才能を次々と開発する努力を続けたから、生き残ってこれたのではないでしょうか。


たとえば、マドンナや松田聖子は、エンタテイメントの世界の厳しい現実を直視し、不断の努力によって新たな魅力を大衆に提示し続けています。だからこそ、いまだにトップスターの座を守っているのです。逆に、あふれる才能を持ちながら、賞味期限が残り少ないことに目を向けず、怠惰に流され同じ芸を繰り返した結果、ポイとごみ箱に捨てられたかのように声がかからなくなる。そんな芸人も多いですよね。あえて、具体例は出しませんが・・・



人は、食品と違って、賞味期限を延ばそうと思えば延ばすことができます。ただし、正確には「延ばす」のではなく、実質的には「中味を入れ替える」ということです。すなわち、賞味期限を延ばすためには、通用しなくなった古い知識やスキルを捨て、これから必要とされる知識やスキルを新たに習得することが求められるのです。


もし、あなたが自分の賞味期限を延ばしたいと願うなら、まず「賞味期限が来るのは何年先になりそうか」を客観的に判断しなければなりません。自分ではよくわからないというのであれば、社会経済動向や、業界動向に詳しい先輩や有識者の方に聞いてみましょう。その結果、たとえばあなたの賞味期限は残り3年くらいと判断できたとします。そうしたら、その3年の間、あなたは新たな知識・スキルを習得すべく、今の仕事と並行して学習を行うのです。そして、少しずつ古いものを新しいものに置き換えていく。



要するに、賞味期限を延ばすためには、以前も書いたように「学び続ける」ことが必要なのです。このことは、変化の激しい現代において本当に重要なことだと改めて思います。


従来は、キャリアとは「蓄積」するものだと言われてきました。長年の現場経験を通じて得られる知識、スキルが価値を持ったわけです。もちろん、職人の世界では依然として経験から来る蓄積が重要です。しかし、デスクワーク主体の仕事では、ITの進展によって仕事のやり方自体が根底から変化しつつあります。そこで要求される知識やスキルは、しばしば新規に学ばなければならない、まったく新しいものであることが多いですよね。したがって、「蓄積」するというよりは、「更新」(新たに置き換える)することだと言えるでしょう。


これからは、「キャリア蓄積」ではなく、「キャリア更新」を行うことが、あなたのキャリアの賞味期限を延ばすためには必須なのです。

縦軸を伸ばすしかない[2007年06月14日(木) ]

※この記事は2007年6月14に「キャリアでざいんBOX」で掲載されたものです。


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾です。


あまり想像するのは気がすすまないと思いますが、「退屈な人生」ってどんなものだと思いますか?



最初に頭に思い浮かぶのは、おそらく動物園の檻の中で暮らす動物たちじゃないでしょうか。野生に比べれば、動物園での生活は至れり尽くせり。空腹を抱えて必死で狩りをする必要もなく、毎日、栄養のバランスまで考えられた食事が、上げ膳据え膳で出てきます。3食昼寝付きの気楽な毎日です。


しかし、文字通り、食べることと寝ること以外にやることのない単調な日々が続きます。動物たちには、チーターのように走るのが速かったり、樹上生活者のオランウータンのように、握力が300-500kgもあったりと、それぞれ固有の能力が生まれながらに備わっています。ところが、狭い檻に閉じ込められたままの動物たちは、こうしたすばらしい能力を発揮する機会もなく一生を終えることになるのです。



小さいころに動物園に行った時、檻の中の動物たちに対してなんとなく、「哀れみ」の気持ちが湧いたのは、「自由を奪われた変化の乏しい単調な毎日は、動物にとっても退屈なものなんだろうな」ということを無意識に感じていたからなんでしょう。


そう、退屈な人生とは、単調で変化の乏しい毎日のことなんですよね。とりわけ、人間は、単に生きるだけで満足することができない動物です。人は、自分の人生になんらかの意味や価値を見出さずにいられない。ですから、退屈な人生を送りたいと思っている人は、ほとんどいないと思います。


でも、本人が実際に退屈と感じているかどうかはさておき、平日は家と職場の往復だけ、休日は、家でごろごろしていて一日が終わるという、単調な毎日を送っている方も少なくありません。なお、家と職場の間に「行きつけの飲み屋」がはさまる人もいるでしょうけど。(笑)



人は、新しいこと、未知のことの出会いといった変化を求める一方で、不安や心配のない、安全で安心できる状態も同時に求めるという矛盾した心理を併せ持っています。もし、あなたが、日々、新しい行動を避け、慣れ親しんだ行動を繰り返してしまっているとすれば、それは、安全・安心を過度に追い求めている結果なのかもしれません。


私は、安心・安全を重視した生き方を否定するつもりはありません。人それぞれ、自分が納得できる生き方をすればいい。でも、あなたが、人生をもっと楽しく、わくわくする、彩りのあるものにしたいと願うのなら、安住の地から意識的に飛び出て、異質な土地に行き、異質な人に会い、異質な経験を思い切ってやってみることをお勧めしたいと思います。もちろん、異質な体験は疲れるものです。慣れないことばかりで神経が張りつめますから。そんな時は、慣れ親しんだ土地、気の合う仲間たちのところに時々戻って休めばいいですよね。



さて、以前、吉本興業(株)の元常務、木村政雄氏の講演をお聞きしたことがあります。木村さんのしゃべりは、さすが吉本興業。ご本人はお笑い芸人ではありませんが、とびっきりの面白さ。なかでも、人生における「年齢」を横軸に、「経験の数」を縦軸にとってみるという話がとても印象に残っています。


横軸の長さは、私たちそれぞれ寿命がありますから決まっています。平均寿命で80歳ちょっとというところですよね。つまり、横軸はこれ以上は伸ばしようがないわけです。でも、縦軸の経験の数、私は、「異質な経験の数」と補足したいと思いますが、それは本人の意欲しだいでいくらでも伸ばせます。自分の知らない世界、おもろい人に会いたい、そんな思いで行動する人の縦軸の長さはどんどん長くなっていきます。


そして、自分の人生の充実度を横軸(年齢)と縦軸(異質な経験の数)の積、つまり四角形の面積の大きさで表すとするなら、その面積を大きくするためには、縦軸を伸ばすしかないのです。


縦軸を伸ばす、つまり、異質な経験をたくさんすればするほど、確実にあなたの人生の面積は広がる。すなわち、それはさらに楽しい、わくわくする、充実した人生となることを意味しているのです。

才能がないからって簡単にあきらめない[2007年06月07日(木) ]

※この記事は2007年6月7日に「キャリアでざいんBOX」で掲載されたものです。


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。



時々、プロ野球やJリーグの監督やコーチの方が、若手の選手たちを評して、「プロ意識が足りない」とか、「ろくに練習しない」といった愚痴をこぼしているのを聞くことがありますよね。


プロ野球やJリーグなどのプロスポーツは、天賦の才能と、スポーツに打ち込める環境に恵まれた人が、小さいころから努力を重ねてきて、それでもようやくトップクラスの人だけが入れる入り口の狭い世界です。ですから、プロ選手は「一握りの選ばれた人」なのです。


それなのに、「プロ」としての意識が低いのはどうしてなんでしょうか。また、プロの世界でも結果を出したいと考えているはずなのに、なぜ怠惰になってしまうのでしょうか。




そもそも、彼らは「個人事業主」です。つつがなく働いているだけでも、給料がもらえることもある会社員とは違います。一定の成果を出すことを前提として、おおむね1年単位の契約を所属チームと交わしています。もし、成果が出せなかったら首です。


冒頭の監督やコーチの愚痴は、こんな厳しい立場にいることを自覚していない選手が相当数いるということを意味していますよね。実際、あふれる才能を持つ逸材と期待されながら、結局芽が出ることなくプロの世界を去っていく選手たちがいます。


今、「あふれる才能」と書きましたが、実はあふれる才能を持っているからこそ、「大成」できないということが起きるのです。


生まれつき得意なことは、本人にとってはごく当たり前のこと。小さいうちは、親や学校のクラブの監督に言われるがまま受身でがんばれるので結果を出せます。でも、プロの世界に入って、自分のことは自分で管理しなければならない自律した立場に置かれると、「自分には才能がある」という過信、うぬぼれが、地道な努力を阻害してしまうことになりがちなのです。


よく考えてみれば、周囲のライバルたちも、同じく才能を認められてプロになった人であり、才能に加えて継続的な努力を行わなければ、レギュラーの座は獲得できないことは明白のはずですけどね。




一方、才能的には必ずしも恵まれているとは言えない人が、血のにじむような努力をして、ついに栄光の座をつかむという事例はたくさんありますよね。


たとえば最近だと、プロスポーツではありませんが、アテネオリンピック男子体操団体金メダル獲得に貢献し、今は、来年の北京五輪の金メダルを目指している水鳥寿思(みずとりひさし)さん。水鳥さんは、小さいころから両親が経営する「体操クラブ」で文字通り英才教育を受けてきています。


水鳥さんは3人いる男兄弟の2番目、つまり次男坊ですが、3人の中で一番体が固かったそうです。ですから、当初はあまり体操が上達せず、親からもそれほど期待されていませんでした。でも、水鳥さんは体操が好きでしたし、うまくできないからこそ、水鳥さんは必死で練習を続けた。その結果が、世界のトップアスリートです。


水鳥さんの場合、実際のところまったく才能がなかったわけではないですが、まだ芽が出る前の段階で、「自分には才能がなさそうだ」と簡単にあきらめてしまわなかったんですよね。


スポーツの世界に限らず、ビジネスの世界においても、実は苦手だからこそ努力をし、いろいろな工夫をする。そうして、一流のスキルを獲得できることだってあるわけです。




あなたには、大好きなことだけど、「あまり才能がなさそうだ」と感じている分野がありますか。


そんな分野があったら、そう簡単にあきらめずとことんやってみたらどうでしょうか。やってみたけどやっぱり駄目だったという、残念な結果に終わるかもしれませんが、逆に苦手を克服して成功を収める可能性だってある。


また、うまくいかなかったとしても、「とことんやったこと」に対する「後悔」はきっとしないでしょう。人生において、「やりたかったのにやらなかった」ことほど大きな後悔はないんですよ。