キャリア・アドバイザーの松尾順です。
‘納棺師’と呼ばれる職業があるのをご存知でしょうか?
ひとことで言えば、遺体を棺(ひつぎ)に納める仕事をする人のことです。
「納棺」といっても、単にモノを箱に入れるような作業をするだけではありません。
故人の全身をきれいに拭いて清め、あの世への旅立ちのためにふさわしい服を着せる。
顔については、口の中に含み綿を入れ、お化粧をほどこす。もし故人が女性なら、生前使用していた口紅をさす。また、故人が好きだったネックレスなどの装飾品もつけてあげる。
故人の手を胸元で結び合わせる。その後に、故人を棺に移して、親族との最期のお別れをしてもらう。
こうした一連の動作は、
‘納棺の儀’(のうかんのぎ)
と呼びます。
今年(2008年)9月13日封切りの映画、『おくりびと』は、この‘納棺師’の話です。
私は、試写会でいち早く観ることができました。
『おくりびと』は、「死」という重いテーマを扱っていながら、暗さ、陰気さはほとんどなく、むしろカラっと明るい雰囲気。笑える箇所もあちこちにあります。
なにより、全編を通して、人々に対する穏やかで、暖かな愛情に満ちている映画でした。
主役の納棺師を演じる本木雅弘さん、NKエージェント社長役の山崎努さんを始めとして、俳優陣の演技が素晴らしいです。
おそらく、『おくりびと』は、現代の日本映画における「名作」のひとつとして数えられることになるのではないかと思います。
では簡単にストーリーをご紹介しましょう(ネタばれにならない範囲で・・・)。
本木さん演じる主人公、小林大梧は、東京のクラシックの楽団のチェロ奏者でした。
ようやくつかんだプロ音楽家の仕事でしたが、その楽団は突然、経営難により解散してしまうのです。
小林は、自分の音楽的才能に限界を感じていたため、音楽家としての道を続けることをあきらめ、奥さん(広末涼子)と共に故郷山形に戻り、新たな人生を始めることにします。
そして、故郷の町で職探しをする中で小林は、ひょんなことから、「納棺」を請け負う会社‘NKエージェント’で働くことことになるのです。
彼は、この会社の社長に強引に引き入れられたような形で、この仕事を始めることになっただけです。
決して自分から納棺師になりたいと思って、NKエージェントに就職したわけではありませんでした。
彼の初仕事は、なんと死後2週間経って発見された一人暮らしの老人の腐乱死体です。
しょっぱなからいきなり納棺師の厳しい現実を味わい、大きなショックを受けます。
このため、小林は、奥さんにはどんな仕事をしているのか言うことができません。「冠婚葬祭」関係という説明でお茶を濁していました。
しかし、ある時奥さんに仕事の内容がばれてしまい、
“こんな仕事をして恥ずかしいと思わないの。どうか他の仕事を探してちょうだい!”
と泣きつかれるのです。
また、幼なじみの友人からも、
“町で噂になってるぞ。ましな仕事を探せ。”
と、この仕事をやっている限りは、友達づきあいをしたくないような冷たい対応をされてしまいます。
確かに、納棺師は、死に関わる仕事ですから印象は決して良くありません。小林も最初の頃は辞めることを考えました。
でも、小林は、結局、納棺師の仕事を辞めることはなかったのです。たとえ、奥さんがあいそをつかして実家に帰ってしまっても・・・。
なぜなら、彼は、納棺師という職業の本質と喜びを早い段階で知ったからでした。
映画の中で、小林が独白として語った言葉の中で、納棺師の本質を端的に説明していると感じたフレーズがあります。
それは次のようなものでした。
“冷たくなった体にいのちをよみがえらせ、永遠の美を授ける”
納棺師によって丁寧に心を込めてお化粧された顔は、生前元気だった頃の故人に戻っています。
まさに「永遠の美」が感じられる美しさを故人は取り戻すのです。
そして、奥さんに死なれた喪主の夫からは、
「あいつは今までで一番きれいでした。ありがとうございました」
と心からの感謝の言葉をかけられるのです。
納棺師は、悲しい別れの場に立ち会う仕事ではあるけれども、故人と親族との間の「絆」や「愛」を感じることのできる職業であることを小林は実感します。
そして、納棺師の仕事に、やりがいと充実感を持って取り組むようになります。
うれしいことに、奥さんも最後には彼と彼の仕事を認めてくれます。
さて、世の中には実に多種多様な職業がありますよね。
こうした職業の中には、納棺師のような、対外的な印象が良くないものもあります。
また、肉体的、精神的にかなりの負担を伴うものや、逆に単純作業の連続のため、一見、退屈でつまらない仕事だと感じるものもあります。
でも、『おくりびと』を観て改めて思ったのは、仕事を表面的な印象や、見かけの仕事内容で判断すべきではないということです。
どんな仕事もそれは社会的に必要とされているからこそ存在しているのです。
その仕事をやってもらえて喜んでいる誰かがきっといます。
あなたの現在の仕事がどんなものであれ、どうか「その仕事の本質は何か」を考えてみてください。
そしてまた、「ありがとう」と言ってくれる人の存在を感じられたらいいですね。