場末という言葉にはあまりいい印象を持たれない方も多いでしょうね。「あなたのお宅は場末にありますね」などと言ったら、温厚な方でも気を悪くされると思います。
盛り場からはずれたごみごみしたところを場末と呼びますね。街中は街中です。自然の中ではありません。ごみごみしていて、小さな古い酒場が並んでいたりする。明るいうちはかえってひっそりしていますが、住居というより夜のお店が多いからでしょう。
数年前かな、旅行先で夜の11時にふと目を覚ましました。その日はちゃんと計画をたててあって、午後4時から有名なお店で飲みました。そこはいわゆる大衆酒場ですが近隣の方だけでなく、新幹線で来るお客さんもたくさん混じっている。4時開店と同時に1回満員になってしまう。場合によっては7時ぐらいに閉店です。私は4時前に並んで入れてもらいました。
ただそんなに早くから飲んでいると酔ってしまいますね。早めにホテルに帰ってきて、気がつくと寝ていました。
目が覚めて、どうしたものかなと思う。せっかく1泊で来たのだから、このまま寝ているのも何だかもったいないような気がします。酔いもさめたのでどこかでまた飲みたい気持ちもある。とはいえ、11時ですからね。知っているお店はだいたい閉まっています。
そのとき、ホテルからしばらく歩いたところに古ぼけた飲み屋街があったことを思い出しました。いわゆる場末ですね。表通りではなく、裏に入っていく。裏のさらに裏みたいなところに確かに何か・・・
着替えるのは面倒ですが、そういうときだけ積極的になります。で、行ってみた。適当にちょうちんのぶら下がっているお店に入ってみたのですが、おばさんが1人でやっているなかなか凄絶なお店でした。地元のお客さんらしき人が2、3人いた。酩酊している。さらにお店のおばさん自身が酩酊に近いと言えば酩酊に近い。
食べ物はちょっと頼みにくい雰囲気ーーおばさんが調理できない可能性があるーーでしたので、ひたすらビールを飲みました。お客さんが乱暴な言葉を口にする。おばさんが負けずに応酬するという何が何だかわからないプロレス的空間に30分近くいたでしょうか。
すぐ帰るのは申し訳ないぐらいの気持ちで、静かに座っていました。何かを煮たような食べ物が勝手に出てきましたが、何だったかは忘れてしまいました。
いよいよ勘定をすませて帰ろうとすると、おばさんが呂律の回らない調子で「こんなところに・・・すみません・・・ひとかどでしょうに」とおっしゃった。「ひとかど」という言葉にそういう用法はないと思うのですが、私のことを褒めてくださったのだなと素直に感謝して夜道を帰りました。
なぜか、そのことがそのときの旅行ではいちばん印象に残っています。単にそのときだけではなく、その街についての大きな思い出になっています。
あるとき「食べログ」で調べたのですが、お店はすでになくなってしまったみたいです。出会いというのは、不思議ですね。人生自体の出会いがじつはそうなのかもしれません。
2018.06.30 00:55
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