2009.12.12 10:59

 この話をしてくれた浪人生を見ていたのはZ会に勤める以前ですから、もう二十年近くも昔になります。まじめで素朴な男の子でしたが、ちょっとまじめすぎて不器用なところがありました。それで浪人生になってしまったのですね。私は一対一の個別指導という形で彼を見ていました。老成したところがあり、若者の言葉の乱れなどをすごく嘆いていました。

 当時「~みたいな」という話し方がちょうど流行りはじめた時期だったのですが、彼は「あれは比喩ということになるのですか? 比喩にしても軽薄すぎて僕はああいう喋り方をする人間とはつきあいたくありません」などと気難しいことを言っていました。そういう嘘なんか大嫌いという彼が、いままで誰にも信じてもらえなかった話というのをしはじめたのです。大人は信用できないという雑談のときに突然出てきた話題でした。

 彼は「天使」を見たことがあるというのです。幼稚園のとき、二つの窓が開いている大きな部屋に彼は一人でいました(二階だそうです)。一つの窓から突然天使が飛びこんできました。絵本の天使にそっくりだったので天使だとわかったといいます。「背中の羽根をすごい勢いで動かしていました」。彼は子どもすぎてさほど驚かなかったのですが、どういうわけか飛びこんできた方の天使が大慌てで、方向を変えるともう一つの窓からさっと逃げていってしまったというのです。「三秒ぐらいじゃなかったですかね」彼は自嘲的に笑いながら言いました。

 この話を彼はいろいろな大人にしました。誰一人として信じてくれなかっただけではなく、変に理解したみたいな言い方をする大人がいることに腹がたったそうです。「それはきみの深層心理の何かが出てきた夢の話だね。幼児期にはよくあることだよ」というように。おうちの方からは「その話はもう絶対にするな」と言われてしまったとも言っていました。
  
 彼の真っ正直な人柄を熟知していただけに、私はやはり彼が「何か」を見たことだけは間違いないのだろうと思っています。
 この話を私は何人かの友人にしたことがあります。するとそういう話にくわしいある人が神話にも同じような物語があると教えてくれました。きちんと探せば事例がたくさんあるのかもしれません。非常に深い何かが隠されているような気もしています。
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幼児・小学生
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長野先生
35年以上、中学生を教え続けてきました。生徒たちが日々の学びを通じて大きく成長できますように明るいヒントを発信していけたらと思います。

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