2019.11.20 08:24

 入試改革でさかんに表現力を増強しなければいけないというようなことがうたわれていますが、ということはこれまでの世代は表現力が乏しいということなのでしょう。その世代の中にはもちろん大人も含まれています。要するにいままでの日本人はどこかしら表現力に難がある。もう少し伝わるように工夫努力しなければならないということになりますね。
 考えてみれば、親が子どもに対してどれだけ愛情を伝えられているかという問題も出てきます。愛情があるのはあたりまえでも、表現力がともなっていなければ全然伝わらない。
 
 私は心理学者ではありませんし、これから述べるようなことを「権威を持って」お話したいとは思っていません。ただ自分が経験もしくは見聞きしてきたかぎりにおいては、こうしたことは真理に近いのではないかという気がしています。
 愛情ということに関してですが、基本的な方向性としてはとにかく大前提として「まるごと愛する」という配慮がそれなりに必要ではないかと思います。つまらない条件をつけずに「まるごと」です。それが相手に伝わっているかどうか。
 
 条件がついてしまうと相手もバカではない。これができるから愛されるのだなという気持ちになります。芸事でも勉強でも競技でも何でもいいですが、できたら愛され、ちょっと調子が悪いぐらいで愛されなくなる。ましてやすごく調子を落とすと、けなされたり怒鳴られたりする。
 こんなので本当に愛されているのだろうか? と疑心暗鬼にもなるでしょう。愛されているのは自分ではなくて、優秀な競技者や優等生にすぎないのではないか。
 
 まるごと愛されることの安心感の土台があってはじめて次の段階に進めます。私はーーさんざん書いてきたので繰り返すのもどうかという気持ちがあるのですがーー子どものとき自分が「まるごと」愛された記憶はほとんどありません。あくまでも素行がよくはきはきしてさらに成績がよかったらはじめて愛されるという付帯条件をつねに感じました。
 それに気づいたときからむしろ身近な大人(とりわけ両親)に嫌われるようなことをしてみたいとさえ思いました。相手がどう出てくるかに興味があった。
 
 勉強をしない。あきらかに態度も悪くする。すると彼らは怒りますね。なぜ怒るのか。彼らもまた本音のところでは自身の子どもを愛したい。当然でしょう。ところが目下の状況では愛しようがない。そこで条件を整えようとする。はやくいい子にもどして、全面的に愛したいという焦りが生じてくる。
 そうした焦りを私はむしろいい気味だと思っていました。おれはあなたたちのロボットではない。そんな価値観では絶対に生きないぞと考えました。
 
 これがなかなか難しいところなのですが、いったん「どんなに悪いことをしても自分は愛されるのだ」という安心感を得ると、人はそうそう悪いことができなくなるものです。まるごと愛してくれる相手が失望しながらもさらに愛してくれるに違いないと思うと、さすがにしのびなくなるからでしょう。
 大事に思っていることがわが子に伝わらないのであれば、もっともっと表現力を磨く必要があると思います。
 
 ビジネスのような感覚が混じってくるとうまくいかないものです。いい点をとったらとか何番以内に入ったらとか勝利をおさめたらとか、商売上の契約みたいな愛情は人間が渇望している本当の愛情とはまるで違います。徹底的な反感を抱かれる可能性さえある。愛情を表現する工夫や技量みたいなものは、油断なく常に磨き続ける気持ちが大切です。親子関係の良好さというのは日々のトレーニングみたいなところがあり、問題が生じようが生じまいが大人側は常に配慮していく必要があると思います。
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この記事へのコメント

  • 1, 卒業生さん 2019.11.20 22:06
    先生のお話に本当に同感です。
    私は子供の頃は日々悪さをしてそれなりに親に怒られたりあきれられたりしてきましたが、ある日自身にも危険を伴うずば抜けて悪いことをしでかして問題を起こしました。親にはそれまでで最大の怒りを食らうか、ついに呆れられるかと思っていたら、まず「危険」の部分について無事で良かったと安心されました。こっちは何が飛んでくるだろうかと思っていたぐらいなのできょとんとしてしまいました。その後じわじわと通常運転になってきてしっかり怒られて呆れられましたが…。
    (続きます)
  • 2, 卒業生さん 2019.11.20 22:07
    (続きです)
    まさに「『どんなに悪いことをしても自分は愛されるのだ』という安心感」を得ました。今後、仮に親との間にどんなトラブルが起きたとしても、根底では愛されていると信じていられる自信があります。
    ただ、逆にあれだけのことをしでかさなければ私の親もずっと通常運転だったでしょうから、小雨しか降らず地も固まらないようなことは多いのかも知れません。良い子の親も悪い子の親も簡単ではないのではないかと思います。
    長文失礼いたしました。
  • 3, 長野先生さん 2019.11.21 01:23
    卒業生さま

     こんばんは。 
     貴重なお話をありがとうございます。条件のついた愛は「商取引き」にすぎない。世の中はそんなことばかりだよ。得しないならつきあわないというのは、どういうさもしさなのだろう。キリストやブッダがそんなことを提案していただろうか。
     せめて親子関係では別の次元の愛が生まれるといいと思う。いずれにせよ、きみの勇気ある告白はありがたい。またな。
  • 4, ぶどうママさん 2019.11.28 23:24
    娘と取り引きをするつもりはないのですが、学校の宿題をきちんと終わらせないのなら、娘の大好きな習い事は行けないよ。学校のことが優先だよ。ということを言っていますが、娘はそれが苦しい、どうしても出来ない日があり、そのときの対応?もう習い事を本当に辞めさせるか、我慢強く励ますのか、そもそも宿題はできなくとも、娘の好きなことを応援してあげるのか。。親が揺らいでいる状況です。この記事を何度も何度も読ませていただいていますが、基本的なこと=学校の宿題くらいはやって欲しい。そんな風にどうしても思ってしまいます。
  • 5, 長野先生さん 2019.11.28 23:58
    ぶどうママさま

     こんばんは。
     学校の宿題は最優先させていいと思います。それはある意味で学校と生徒との約束であり、約束は守るものでしょう。好きなことをするのは、きちんと約束を果たしてからです。そこはちょっとはっきりさせていってもいいでしょう。それ以上の勉強については、習い事優先でもさしつかえないと思いますよ。

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35年以上、中学生を教え続けてきました。生徒たちが日々の学びを通じて大きく成長できますように明るいヒントを発信していけたらと思います。

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