2018.04.30 03:49

 子どもたちがときどき「お金持ちになりたいから将来何々になりたい」と無邪気に口にすることがあります。お金持ちになった「だけ」では思ったほど幸せになれないのかもしれませんが、わざわざ伝えなくてもいいのでしょうね。希望を持って生きよう、という姿勢がすべてです。
 ただお金持ちになれなくてもーーそれこそ苦しい生活になりそうでもーー物を書くことで生活したいとか、経済活動社会活動とはまったく関係なくとにかく書きたいと強く願う人間も存在します。
 
 その衝動はどこから来ているのか。
 漢文に「白亀」という話があります。私は漢文の専門家ではないので詳しくは知らないのですが、高校の教科書にも出てくるお話です。
 ある軍人がかわいらしい白い亀を飼う。大きくなったので逃がしてやる。その後、戦争が起こり軍人はよろいのまま川に飛びこまざるをえなくなります。溺死覚悟で飛びこむと、何と! 昔の亀が突然あらわれて背中に乗せて向こう岸に渡してくれる・・・簡単に書けば「亀の恩返し」です。あらすじは、それだけです。
 
 ところが最後がこうなっています。インターネットで検索したら書き下し文が出ていたので、なるべく正確に訳してみます。
 (亀は)頭を高くしてこの人(軍人のこと。「あえて」この人とだけ表現されています)を見、ゆっくり去っていった。流れの途中でまた首をまわしてこの人を見、静かに水にもぐっていった。
 軍人側の感謝の気持ちは一切書かれていません。また教訓めいた説明もありません。別れ際、亀が2回わざわざ「この人」を見たという事実だけが書かれています。2回に分けたのは非常に考えられていると思いました。
 
 そこには強い惜別の情が漂っています。どこにも「別れがつらくて」とか「恩を感じて」とは表現されていませんが、理解できる人であれば「わかるわかる、亀の気持ちも軍人の気持ちすごくよくわかる」とそれこそ涙ぐんだっておかしくない描写です。
 亀は喋れないから何も言えない。軍人はあえて喋らない。亀が2回「この人」を見たというのは描写のようでもあり、軍人の切ない認識のようでもあります。
 
 安っぽい涙や感謝の言葉が出ていないからこそ価値がある。書き尽くさないで何かを表現できる可能性は、やはりある種の人間の衝動を突き動かすものがある。大げさに書けば、生きていくことの救いや解放になるのですよ。
 お金になるならないはともかくとして、とにかく表現したいという人間はいなくならないでしょう。仮に生まれ変わった世の中でーー悲しいことに「物語」を書くことがすでに職種として成り立たなくなっていたとしてもーー自分はやはりひたすら書くと思いますよ。
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この記事へのコメント

  • 1, 変わった男さん 2018.05.02 01:49
    長野先生

     こんばんは。
     明確にし過ぎない方が、読み手個人に色々な感情を引き起こさせることはありますよね。語り過ぎず、言葉足らず過ぎず。
     1000年残る言葉、100年、10年…どれも違います。

        変わった男
  • 2, すみっコきたくさん 2018.05.02 19:08
    仕事である程度評価されても、仕事自体が全く面白くない。面白くないと思えるだけ余裕がでてきたのかもしれませんが。困ったものですね。
  • 3, 長野先生さん 2018.05.03 00:16
    変わった男さま

     こんばんは。
     そうだね。語りつくさない知恵というか力量というか。
  • 4, 長野先生さん 2018.05.03 00:18
    すみっコきたくさま

     こんばんは。
     微妙なところだね。最後の最後は思いきり投げ出す自由はあるんだよ。それだけ確実に意識しておけば、あとは適当でいいような気がするな。

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