2015.11.18 08:34

 大学に通っているころのお話です。友人に「きみは小説が書きたいというより小説家というものになりたいのではないか」と質問されて面食らったことがありました。そうなのか? という感じで、私には自分の心がよくわからなかった。
 その後もこの件についてはわからないまま来ました。考えれば考えるほどわからなくなる。甲子園を目指す球児に、君は野球が好きというより野球選手に憧れているのではないのか? なんていきなり質問しても困惑されると思いますよ。
 
 現在の私は少なくとも「小説家」ということにはならないですね。そもそも小説そのものをどこにも発表していない。さらに今後そうすることで何かしら経済的な発展を企図するわけでもない。私はあくまでも自己満足のために表現しています。
 自分が書いているものに小説という名称をつけることにさえ、いまは若干の迷いがあります。要するに文章表現ですね。何かしら必要なのでそうしている。
 
 私が生涯でいちばん感動した文章というものを以下に書き写します。
 「柳原商栄会を抜けて、千草園の方に歩くと東武のガードに出た。このガードは、何と高さ1.7メートルである。こんな低いガードは初めて見た。頭を少し下げて通り抜けると、反対側から父親に手を引かれて盲目の少年がやってきた。ちょうど、すれ違う時、少年は父親に『・・・に行ってもいいの?』と訊いた。父親が『いいよ』と言うと、少年はうれしそうに笑った。どこに行くかは聞こえなかったが、弾けたような笑い顔が印象に残った。」(続・下町酒場巡礼 四谷ラウンド発行)
 
 書名でおわかりになるかもしれませんが、酒場案内の本からとったものです。この部分は大川渉さんという方が書かれています。
 2000年の発刊当時この一節を読んで、ひょっとしたらいままでの人生でベストの文章かもしれないと思った。それから何度読み返したかわからないのですが、どんな文学作品や経典よりも私自身の魂を揺さぶる何かがここにはあります。それが何なのかはわかりません。切り取られた一瞬の真実が持つきらめき・・・なんて書いてしまうとかえって凡庸ですね。
 
 欲を言えば、自分もそういう表現者でありたい。小説ではありませんが、たとえばこのブログも最近はそんな気持ちで書いています。
 歳をとってもこの分野「だけ」はいまだに確実に進歩していると感じます。だから書く・・・ということでしょう。何かになりたいというより何かであるーー何かの部分であると言ったほうが正確かなーーことを確認する。全体に対する賛歌。そういう要素も多分にあると思います。
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この記事へのコメント

  • 1, スマイリーさん 2015.11.18 09:50
    先生は、「小説家」ではないのかもしれませんが、確かに「作家」「物書き」というお仕事をされていると思います。
    先生のブログも6年を越えましたが、初めは息子の中学受験の時期にヒントを求めて読み始め、今では私の楽しみのためだけに読み続けています。

    先生のブログの中に時々ハッとするような文章があります。
    哲学的な考え方だったり、先生自身のもののとらえ方、感じ方だったりを、興味深く、時には共感を持って読ませていただいています。
    全国に私と同じような先生のブログファンは大勢いると思います。
    先生の未発表の小説も是非読んでみたいと思っています。
  • 2, 長野先生さん 2015.11.18 10:06
    スマイリーさま

     こんにちは。
     どうもありがとうございます。
     だんだん歳をとってきて守られている何かに対する感謝や喜びの念がひとりでに湧いてくるようになりました。そのあたりですかね。ほら、こんないいことがあるよという感じでたくさんご紹介できたら・・・と考えています。
  • 3, 中3母さん 2015.11.19 10:47
    先生はエッセイストとして、成功されるのではないかと、密かに思っています。
    大河の一滴などと、共通するものを感じます。
    このブログをずっと続けてほしいと思っていましたが、形が変わっても先生の文章が読めるならば終わっても大丈夫です。
    このブログだけではもったいなくて、もっと世間には先生の文章が必要な人達が居ると思います。
  • 4, 長野先生さん 2015.11.19 11:49
    中3母さま

     こんにちは。
     どうもありがとうございます。まあ、書くことは好きなのでとりあえず現在の形で続けていければと考えています。さらに書くことで多少なりとも人さまのお役にたてれば・・・幸せですね。

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長野先生
35年以上、中学生を教え続けてきました。生徒たちが日々の学びを通じて大きく成長できますように明るいヒントを発信していけたらと思います。

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