2015.01.25 07:04

 20歳になるかならないかのころのお話です。ある作家のお墓を見に行きました。ファンというのはそういうことをするものでしょう。
 ある日あるときふらりと行った。命日とかそういうのではない。そんな日にのこのこ出かけていって、それこそ熱心なファンの方と会ってしまったら恥ずかしいという気持ちがありました。ですから冬の日の午後、思いついた感じで出かけていきました。ほかにもいろいろ覚えていることがありますが、それは省略します。
 
 駅からだいぶ歩きました。じつは以前にも来たことはあるのです。10代の夏のことです。やはりふらりと来てみた。そういうこともするものでしょう。
 目的のお墓はすぐに見つかりました。ところがすでにどなたかーー寒空にジャージ姿の1人の若者がーーぶつぶつひとり言を呟きながらお墓のまえに立っていました。そこに私がかぶるように立つのは何となく気まずいですね。私は黙ってお墓のまえを通り過ぎ、奥のほうに進んでいきました。それから適当に時間をつぶした。墓地はけっこう面白いですからね。
 
 10分ぐらいたってもう大丈夫だろうと戻ってくると若者の姿は消えていました。落ち着いた気分でお墓のまえに立つ。お参りというより観光みたいな気持ちなので手を合わせたりはしなかったと思います。
 視線を感じるのですよ。だれもいない墓地のはずなのに、だれかが自分を見ているという強烈な視線を感じる。はたして前方の樹木の陰からさっきの若者がそろそろ出てくるではないですか。こちらを見つめじりじり近づいてくる。
 
 暴力的な感じではないので心配はしませんでしたが、ちょっと面倒なことになったなとは思いました。彼は少しどもりながら「き、きみもこの作家がす、好きなのか?」と質問してきました。覚悟を決めて「ええ」と答える。自分よりは年上であることは間違いない。目の感じでかなり思いつめている(?)かなということは想像がつきましたよ。
 ちょっときみ、ど、どこかでゆっくり話そうじゃないかと言う。ここまできたら仕方がないという気持ちで、近所の喫茶店に2人で入りました。美術や文学の話をした。
 
 これから友だちになろうとも言われたのですが、それは遠慮したいという気持ちがあった。携帯電話も何もない時代です。申し訳ないとは思ったのですが、適当な電話番号を書いて渡しました。彼は自宅に電話を持っていないと言っていました。
 私はのちに彼のことを頻繁に思い出しました。親しかった何人かの昔の友人のことはすっかり忘れてしまっているのに、たった1度だけお墓で会った男のことはよく覚えていたりします。そういうことがありますね。
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この記事へのコメント

  • 1, 幻化さん 2015.01.25 10:46
    おはようございます。
    先生の書かれた本、見てきましたよ。写真には驚きました。買おうかなと思ったりもしたのですが、その時は帰って来てしまいました。ブログの方は2週間分くらいためて読んでいます。これからも楽しみにしています。
  • 2, 長野先生さん 2015.01.25 23:20
    幻化さま

     こんばんは。
     まあ、ゆっくり見てくれよ。いい本だと思うぜ。
  • 3, めきしこちりさん 2015.01.26 00:23
     こんばんは。
     「励ます力」は息子が西荻窪の本屋に取りに行き、そのまま並びの床屋での待ち時間に読んだそうです。
     ここ(「テストの復習」の項目)が自分に当てはまるとか自覚していました。有難うございます!
  • 4, 長野先生さん 2015.01.26 09:30
    めきしこちりさま

     こんにちは。 
     西荻窪の本屋さんではなかなか拙著を見かけないのですが、わざわざお求めいただいてどうもありがとうございます。
     床屋さんの待ち時間にも活字を読まれるというのはとてもいい習慣ですね。いまはすぐゲームなんかをやってしまう子が多いのですが・・・やはり何かしら違いが出てくるような気がしています。

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35年以上、中学生を教え続けてきました。生徒たちが日々の学びを通じて大きく成長できますように明るいヒントを発信していけたらと思います。

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