2013.12.11 13:25

 西日暮里駅近くのガード下にT食堂という(食堂というより)酒場が昔ありました。現在はもうないですよ。私は十数年前、ある書物でこの酒場の存在を知った。
 この食堂がテレビのドキュメンタリー番組で取りあげられたことがあります。食堂が、というより食堂に来ているある人物について。Uさんという50歳ぐらいの方です。Uさんとお母さんとUさんを応援している兄貴分のKさんが中心になったドキュメンタリー番組でした。
 
 おそらく3回ぐらいやったのではなかったか。ぜんぶ録画しましたが、テープは(人に貸したりしているうちに)紛失してしまいました。
 UさんもKさんも現在は亡くなっています。おふたりともアルコール依存症でした。とくにUさんはひどかった。お母さんの年金に頼って働かず、1日中自宅に引きこもって飲んでいます。ときどきT食堂にも顔を出す。
 
 じつは最近、Youtubeで追悼編が流れているのを発見しました。ガード下酔いどれ人生(追悼版)とか何とかというタイトルがついていた。享年50歳。お母さんが入院されているときにガスや水道を止められた自宅で冷たくなって倒れていたそうです。発見者がKさんでした。「まさか死ぬとは思っていなかったからさ・・・」と絶句されていた。このKさんは依存症ではあってもなかなかの人物なのです。Uさんのことをかわいがっていて、しっかりしろとつねに激励する。やる気を出せ、働いてみろとハロー・ワークにも連れて行く。
 
 コメント欄なんかを見るとーーまあ、それが当然なのでしょうがーーどういう人生なんだみたいなことがたくさん書かれています。生きている意味がない・・・みたいなことも。
 私はこのUさんという人をはじめてテレビで見たとき、とても美しい何か(顔かたちではありませんよ)を見たという印象を持ちました。何と言うか、地上に放擲された天使の赤ちゃんとでも言うか、どう表現したらいいのかわからないほど無垢な美しさを感じたのです。
 
 UさんとKさんが惣菜パンをかじりながら大きな河ーー荒川とか隅田川でしょうーー沿いの歩道を散策する穏やかなシーンがあります。Uさんは言葉もはっきりしないのですが、お母さんのことが大好きだと言う。「ナンバー1」と英語で呟く。Kさんは「口先だけではだめだぞ」と返事をする。するとKさんに向かって「ユー、ナンバー2」と言います。さらに彼はテレビカメラに向かって「ナンバー3、ナンバー4」と指さします。要するに撮影スタッフのことが好きだという意味なのですね。何度見てもじーんときます。
 
 私はこのT食堂に行ったことがあります。わざわざ探して行ってきた。そのときはそのときでかなり危ない感じの酔っ払いがいました。午後の2時ぐらいでしたが、酩酊してわめいているおじ(い)さんがいた。まあ、伝統なのでしょう。
 ちょっと圧倒されて軽く飲んで出てしまったのですが、私のなかには自分もUさんみたいになりたいという微妙な欲望もあるのです。破滅的に生きたいというより、Uさんみたいに無垢になりたいとでも言うのかな。そういう感情も確かにあるのです。
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この記事へのコメント

  • 1, 変わった男さん 2013.12.11 17:48
    こんばんは

    近頃インドのサドゥーと呼ばれる人々に関心を持つようになりました.(はっきり言えばなりたい.)
    後でちゃんと見たいと思いますが,このUさんもKさんもインドにいればサドゥーになっていたのではないかと思います.
    先生の微妙な欲望と私のサドゥーへのあこがれはかなり似たものがあるのではあるまいか.なんとなくそう感じます.
    良識ある読者の皆様には不信感を与えてしまうかと心配しますが許していただこうと思います.変わった男ですから.

    変わった男
  • 2, 長野先生さん 2013.12.11 17:59
    変わった男さま

     こんにちは。
     サドゥーのことは私も調べたことがあるよ。路上で麻薬をやっていても警察官はサドゥーはあまり取り締まりたがらないとも書いてあった。神に近いからだそうだ。きみも是非そうなってくれ。麻薬ではなく神に近いほうだよ。
  • 3, ゆりママですさん 2013.12.12 07:17
    おはようございます。つげ義春的世界、私は好きですね。
    昔はわかりませんでした。退廃的というか。
  • 4, 長野先生さん 2013.12.12 09:38
    ゆりママですさま

     おはようございます。何か・・・とくに私ぐらいの年代だと昭和的なものに惹かれるのでしょうね。
     このまえあまりにも用事がつまっていて授業後に「彼」とゆっくり話せなかったのでちょっと気になっています。いいお正月を、とお伝えください。よろしくお願いいたします。
  • 5, 通りすがりさん 2014.01.26 20:49
    初めてお伺いします。
    私は受験生ではないのです、「ガード下 酔いどれ人生」を見てこちらにたどりつきました。兄貴分のおじさんも亡くなられていたのですね。
    お母さんは・・・生きていれば94ですが、まだご存命なのでしょうか?
    浅草に住んでいたこともあり、このような古き良き酒場は自分の近所にもあります。確かに昼間から日雇いのおじさんが飲んでいますね。
    自分より下の人間が安心する。そしてプライドを保って、自分に言い聞かせながら世話を焼いている。共感できるんです。多分私もこの兄貴分のおじさんと同じ人間なのでしょう。
    出来れば話をしてみたかった。合掌。
  • 6, 長野先生さん 2014.01.26 20:54
    通りすがりさま

     こんばんは。
     コメントをありがとうございます。私はその後も3日に1度ぐらいの割合で「ガード下酔いどれ人生」を見ています。本当に何かじーんとくるのですよ。兄貴分のKさんが亡くなったとき、T食堂のご主人は「これでT食堂も終わった」とおっしゃったそうです。それぐらいの存在だったのですね。
  • 7, 長野先生さん 2018.07.14 08:12
    コメントをいただいた方

     こんにちは。
     お名前がそのまま出ていたので念のために匿名にいたしました。
     コメントをありがとうございました。私はいまもときどきYoutubeでこちらの番組を見るときがあります。何か・・・深く触れてくるものがありますね。
  • 8, はるさん 2019.10.15 20:08
    こんにちわ。
    今年、東京ガード下酔いどれ人生の第一回目、奮闘編がアップされこのブログにたどり着きました。

    Uさんを雇った警備会社のT社長も、先生と同じようなことを仰ってました。人を蹴落としたり嘘がつけないひと。人間として一番大事なものを持っている。
    また、長く続かないと悪いから、というUさんに、

    いっぱい迷惑をかけろ、とT社長。
    こんなこと言ってくれる人情派な人はもういないでしょうね…

    私も頑張って、でも美味しくお酒を飲みながら生きていきたいです。
  • 9, 長野先生さん 2019.10.15 22:39
    はるさま

     こんばんは。
     私も最近「奮闘編」でしたか、発見したところです。最後にお母さまとT食堂に歩いていくシーンが美しいですね。「お腹すいてる?」とか「ビールと酎ハイとどっちがいい?」とか。神のようですよ。
  • 10, 三河島さん 2020.05.31 10:48
    親子が珍しくほのぼのとしてるシーンがありました ヨタロウさんが久々に仕事行く前だったんですね
  • 11, 長野先生さん 2020.06.02 13:01
    三河島さま

     こんにちは。
     私はいまでもときどき「奮闘編」を見ることがあります。魂が浄化されるような感覚もあるのですが、どうしてですかね。コメントをありがとうございました。
  • 12, ハムスケさん 2020.08.31 08:29
    自分は、あの頃は無職だったので、あの番組を見て危機感を覚えました。
    おかげで今があると感謝しています。
    息子に先立たれて最後墓参りしているお婆さんの姿をみた時は涙が止まりませんでした。
  • 13, 長野先生さん 2020.08.31 21:27
    ハムスケさま

     こんばんは。
     ありがとうございます。生きていく過程で、何かしら私たちに貴重な示唆を与えてくださった番組であると感じています。私はいまでも「小林さん」には相当憧れている部分がありますよ。

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